ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ12)

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　あの阿鼻叫喚が今も耳の奥底に焼き付いている。
　

「あ"あぁぁぁぁぁぁぁ──────」
　

　* * *

「あぁぁぁぁぁぁッ！！！」

　絶叫とともに少年の上半身は跳ね起きた。
　急激な過呼吸に肺と心臓は悲鳴を上げ、声帯は瞬く間に枯れ果てる。豪雨に打たれたかの如く、全身の皮膚は多量の汗で濡れ、喉は異様な程に乾いていた。目を落とした塵ひとつないベットカバーには、額から鼻にかけて流れた汗が数滴にわたって溜っている。
　
「暫くは安静に寝ていろ」

　突然、何処からか、少年か少女かまるで判別のつかない、然し何時の頃か耳にした事のある、奇妙に美しい声がかかった。肩をビクつかせた少年は、声の聞こえた方向───すぐ真後ろを見やった。誰もいない。だが、確かに少年が聞き取った声の方向は自分の背後、そちらで間違いなく合っていた。
　再び声が掛かる、今度はよりはっきりと、明瞭に少年の耳に届いた。

「二日間の“投与”だったが、まだ感覚器官が混乱しているようだな。視覚は大方安定してきたようだが、聴覚の回復はまだ先か。無理もない、何処からあんな破廉恥なものを手に入れてきたのかは知らないが、君の飲んだドラッグは最近開発されたばかりで、依存性と副作用の調整が全く行き届いていない未完成の代物だったから…。心の深淵を付くような悪夢を見ただろう？恐らくはそいつも副作用だ。感覚神経に働きかけ、幻覚を見せようとする精製者計算外の反動作用とも言っていい」

　僕の治療薬が効きにくいのも納得のいく限りだ。と、少年に語り掛けるその人物は、物陰からぱたりと姿を現して、いつの間にか、後ろを向いていた少年の横に、静かに佇んでいた。
　最良の芸術家が型取ったの如く、理想形そのものの白い右手には、幾らかの錠剤とビニル袋が握られていた。その顔つきと声からして女性だろうか。振り向いた少年は、乾燥した口をぽかんと開け、唖然として、自分の隣人を見上げる。
　まさか、俺を助けて下さったのですか、全くの他人の俺を、と。
　その程度で驚くのか、なんて視野の狭い子供だ、と漆黒の夜空を纏ったその人物は微笑した。初対面であるのに、一瞬にして少年の心を魅了するその笑みに、ハイルは微かな身震いをした。

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