ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ23)

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椅子に腰を預けたまま、黒髪の人物が黒水晶の目を伏せ、生身の指で自らの顳かみをノックした。気だるげに、然し、冷静に。それから、何を考えているのか、組んでいた足を解いて、如何にも仕方ないと言った様子で立ち上がった。

「まぁ、それって褒め言葉？」
「ご自由に考えてろ、バカ女」
　立ち上がった顰め面の当人に対し、決まりきった華やかな笑みが見事に美しい女は、慣れたように歩み寄って、その顔を覗き込んでから、少年へ振り返った。対して、その異国の精巧な人形の如く華のある表情は、振り返って視線を向けられた少年にとって、猛毒に等しかった。元ハイル少年の、病的にまで目つきの悪い顔が、一層苦々しく歪められたことを、この同一の空間にいる誰もが気にかけていなかった。それを素知らぬ顔と言うよりかは、全くその辛辣な表情が眼中に入っていないかのように、濡鴉の髪を持つ女は、磨かれた貨幣のような金色の目を輝かせて、恩人を指し示した。
「ねぇ聞いた“シモン”、この人ったら私に対して“僕という天才よりも先が見えてる”って言ったわよ！素直じゃないんだから、そう言いたいならハッキリ言えば良いのに、ホント、いつも遠回しよ！人を持ち上げることだけはヘタなんだから！」
　そうよね、と言って頬を赤らめて訊いた十代後半に思える容姿の娘に向かって、当の漆黒のテロリストといえば、もうそれでいいと、半ば投げやりに肩を上下させた。
　相反して、少年は正にその女の言動が非常に不愉快で気に食わなかった為に、殆ど無意識のうちに、歯の半分を一度ですり切りそうな程の歯軋りをした。なんと最悪なことだろう、寄りにもよって今日一番、仕事の助力の話を承諾に近く持って行けたというのに！ストロベリーブロンドの少年の中でこの思いが蟠らずには居られない。少年の視点から見て、この女と言うものは今一、こちら側の数年に渡る気苦労というものが分かっていないように思えた。
　否、少年にとって其れよりも耐え難かった事が一つある。
「俺の名前を気安く呼ぶなこの糞アマ！そもそも、そもそもだ、お前みたいなオンナが、寄りによって貴様が、何故俺の名前を知っているんだ！」
　そう、何よりも彼が気に食わなかったのが、この彼が腐れきった世の中の出会って来た人間達で最上位に嫌いな人間が、否悪魔が、敬愛する恩人よりも先に、自分の新しい名を知っている事が許せなかった。

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