変わり者 3 ページ24
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ある朝、遂に中原は決心した。
重たい鉄の塊が外れたことをじっと黙認して、元、伊藤計劃は「いいの…」と、怪訝な顔をして自分を狭い部屋に閉じ込めた張本人を見据えた。逃げてしまうかもしれないよ、と。
「逃げれただろ」至って熱のない声で中原が呟くように言った。自分の腕に、ずっしりとした鉄の鎖を巻き付けて整えながら、頑丈な部屋の棚の引き出しにそれをしまい込むと、美貌の小説家に振り返る。無関心を想起させる声とは裏腹に、その表情は如何にも痛烈な響きを携えていた。
「何故そう思う?」
少女がそう問うたので、中原は惚けるなよ、と呟いてから、寝ぼけたように立ち尽くす、白い彼女に歩み寄った。
「探偵社なんて言うそれなりの規模と力を持つ武装組織の情報提供をするお前が、こんな浅はかな手段にまんまと捕らわれる筈がねェんだよ。何らかの訓練を受けてるのが当然だ。───それに、太宰がお前と仲がいいと来たら更にタチが悪い。あんなクソ青鯖だが、元は相棒だ、彼奴が用心深い事ぐらいは善く知ってる…」
それと、と微笑みかけながら聞いている彼女に些か足らず見惚れる中原は続けた。
「やっぱり、お前が俺に声を掛けた時、アレはマジで不自然だぜ? 何でだ、何故お前は必要ないにも関わらず、あの時俺に声をかけたンだ?」
「貴方が好きだから」
「嘘つけ」そう言いつつも中原は赤面した顔を瞬時に帽子で覆い隠した。
「ウソ、半分ホント。いや、全部ホント」
「どれだよ」
「ホントのほんと」
まるで子供との会話を思わせる美貌の少女の回答に、中原は困惑しつつ、ため息混じりに頭を下げた。ただ、不誠実な回答は、言葉だけであって、その最良の彫刻家が象ったかのような美貌には、確かな誠実さが讃えられていた。
各言えども、また確かだったのは、中原中也当人が、彼女の言葉を信じていない事だった。今の中原とて、心の底から狂人として染まりきっている訳では無い。現在の彼は常に『この少女の自由を否応なしに奪った自分を、愛してくれるはずもない』という自嘲的な念に苛まれ続けていた。
だが、Aという人間が、そんな常識的な面が一部欠落した女であることを彼は後一歩のところで気付かずに居たようだった。
「貴方は、本当はとても優しいから…」
いや、寧ろ、彼が彼女のことを『只の阿婆擦れ』と解釈しなかったのは間違いではなかったのかもしれない。
彼女は人の心の奥底を真に理解するに、あまりに聡明すぎたのだ。
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ワッさん+a(プロフ) - あひゃこさん» いえいえ!まさか紹介して頂けるなんて夢にも思いませんでしたから!こちらこそ、ずっと応援してます! (2018年6月12日 19時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
あひゃこ(プロフ) - ワッさん+aさん» 承諾頂きありがとうございます こちらこそ、このような素敵な作品を私の作品で紹介できて大変嬉しいです^^* 私の新作である 生前手記 という作品に載せさせて頂きました これからも応援しています (2018年6月12日 18時) (レス) id: 782bc5610f (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - あひゃこさん» おおおわっ!良いのですかっそんなっ!有難うございますっ!いや、迷惑だなんてちっともっ!寧ろ光栄と言うか、願ってもないお話です!是非此方からもお願い致しますっ!! (2018年6月12日 18時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
あひゃこ(プロフ) - ワッさん+aさん» そうなのですね こちらこそいつも閲覧頂きありがとうございます ご迷惑でなければ、是非この作品を沢山の方々に閲覧してほしいという私の思いがありまして… 作者様さえよろしければ、是非私の作品でこの作品を紹介させて頂きたいです(><) (2018年6月12日 8時) (レス) id: 782bc5610f (このIDを非表示/違反報告)
ワッさん+a(プロフ) - あひゃこさん» 励みになるコメントを有難うございます!細やかで僕も特に気を使っている部分に目をつけて頂いて嬉しい限りです!之はご期待に答えて更新せねばっ!それと、僕もあひゃこさんの作品は愛読させて頂いて居ります!!素敵な作品が多く、何時も目を見張るばかりです! (2018年6月11日 17時) (レス) id: 0cdcac71cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ワッさん+a | 作成日時:2018年5月27日 21時