恋風乱舞 2nd【ars M.A】 (ページ30)

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65.デコ・ピン。ページ30

お昼過ぎくらいまで、Aちゃんと駅前のドーナツ屋さんで過ごして

泣く泣く別れて、来たバイト。

何かもー、今の俺ってば好き好きMAX！って感じだから、まるで今生の別れ。

駅で「バイトやだよー...」ってAちゃんの手を離さない俺を、彼女が「頑張って！」って励ましてくれて

Aちゃん、大人になったねぇ...とか思う自分に笑えた。

「おはよーございまーす」
「おはよ、雅紀くん」

今日も斗真さんは男前で、咥えタバコでグラスを磨いてる開店前のいつもの風景。

デニムのサロンを腰に巻いて、ダスターを手にカウンター拭いて、観葉植物に水やって

オープンしたら、ビルの下に看板を出してお客さんを待つ。

何組かお客さんが来て、その中に女性2人組が居た。
多分、OLさんだろうな。
初めて見るお客さん。

カウンター席に通して、その1人が斜め掛けしてた小さな鞄を首から抜こうとした時、そのストラップがお団子頭にしてる髪に引っかかった。

「あっ...ヤバッ！痛いっ！」
「わー！何してんのー！」
「どうしよー！」

鞄を取ろうとしてるポーズで一時停止してしまってるお客さんに近寄る。

「そのまま、ジッとしてて下さいね？」
「え？」
「僕が取りますから」

お客さんは、俺より随分背が低いから頭のてっぺんに引っかかってるストラップも簡単に取れた。

「はい、取れましたよ！」
「あー！ありがとうございますー、痛かったー...」

困ったような顔で笑うお客さんのお団子頭が、クシャッと崩れてる事に気付く。

「あ、もう少しジッとして貰えますか？」
「え...何...」
「髪が乱れてるんです。ちょっと、触りますよ？」

何ヶ所かに留めてあるピンを抜いて、お団子を作り直す。

「僕、美容の専門学校生なんです。だから、これ位のお直しなら任せてください！」

お団子頭は、Aちゃんの髪で時々練習させて貰ってるから得意。

「まだ美容師のヒヨコどころか、卵なんですけどね！はい、できました！」

お友達の方が「最初より綺麗になってるよ！」って笑って、お直ししたお客さんも「お兄さん、凄いね！」って褒めてくれてちょっと良い気分。

そのお客さんが帰る時に俺の名前を訊いてきた。
何も考えずに「あ！相葉雅紀って言います！どうぞ、ご贔屓にー」なんて軽く応えてお見送りしたら

斗真さんに、チョイチョイって手招きされて

カウンター越しに「何ですかー？」って顔を寄せたら、ピチンッてデコピンされた。