恋風乱舞 2nd【ars M.A】 (ページ23)

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58.ナツノ・ヨ。ページ23

河川敷のAちゃん達は、どんどん俺から離れて行って

その内、人混みに紛れて見えなくなった。

「...シュンスケ達んトコ、戻ろっか」
「そうだね」
「えっと...え、どこだ？」
「うわ...人、増えたね」

俺たちのいる土手の上には、さっきまでの倍以上に人が溢れ始めててちょっと危ない感じ。

「はぐれたら大変だから、俺のＴシャツでも掴んでてね」
「うん、伸びたらごめんね」
「えー！これ、お気に入りなんだからソーっと掴んで！」

後ろでナナが俺のＴシャツの裾を掴んでるのを確認して、歩き出す。

でも全然シュンスケ達の姿なんて見付けられない。

「あ、ナナ。シュンスケに電話してみて！」
「さっきから何度もしてるんだよー...」
「え？そうなの？」

振り返ると、スマホを耳に当てたナナが「電波、全然ダメだ」って首を振る。

そっかー、人が集中してる場所って電話繋がりにくくなるんだった...もう！シュンスケ、何が電話してだよ！...って、まぁ俺が離脱したのが悪いんだけど。

とにかく、土手の上は人でギュウギュウになって来て女の子連れではちょっと危険。

「ナナ、あっち降りよ」

俺たちは河川敷とは逆サイド、人の少ない方へ降りる事にした。

「俺がもう一回、電話してみる」
「うん、繋がるかな...」

土手の下でスマホを出した瞬間

ドーンと、お腹に響く大きな音。

「始まっちゃった...」

ナナが空を見上げて、呟いた。

スマホからシュンスケの声は、やっぱり聴こえて来ない。

「ねぇ、ナナ。もう、ここで見ちゃう？」
「え？」
「せっかくの花火、見ずにウロウロするのは勿体無いもん」

河川敷に比べればちょっと木とか邪魔だけど、充分見える。

「すっげぇ、綺麗」
「うん、ホントだね」

計画では今頃、Aちゃんを連れ去って一緒にこの花火を見てるはずだったんだけど...

「ねぇ、まー君」
「ん？」
「今日、誕生日なの。私」
「え？そうなの？」

花火を見上げたまま、ナナが「そうなの」って微笑む。

「ナナ、おめでと！」
「うん！ありがと」

そう言えば、『七月生まれだからナナって名前』って言ってたな。

「最高の誕生日になったなぁ...」
「そうだよ！花火で祝って貰えるなんてセレブ位のもんだよ、ナナ！」
「...フフッ、うん」

紅い花、蒼い花

鼓膜を揺らす音

火薬の匂い

夏の夜は、どこか切なくて

夜空を見上げてる首が疲れて顔を下ろすと、同じタイミングで顔を下ろしたナナと目が合って

ちょっと笑った。