この世界の片隅に3【土方十四郎】 (ページ34)

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百三十四ページ34

『水瀬Aただいま戻りました！』

「「「おかえりなさい！」」」

ひと月半の入院生活を終え屯所へ帰ってきたのが数日前。

今回の単独行動の責任という事で大量の始末書を押し付けられた。なんでもとっつぁんからのお達しだそうで、絶対嫌がらせだ。自分の監督責任がとか言われる前に始末書で片すつもりだ。

あれが警察のトップだなんて……この世の終わりを感じるわ。いやもう終わってんのか。

『やっと終わった…』

現在自室、時刻は21時を回った。
口にできた言葉にグッと背筋を伸ばした。

開けっ放した麩から見える月が綺麗で縁側へと腰を下ろし、手に取った書類へと目を落とす。

水の屋と尾斗湖魔絵党は全滅後、薬の出回りも無くなり抱き込まれていた攘夷党も全て粛清出来たらしい。

ただそれが思いの外大きい粛清となったらしく、その話を聞き攘夷志士達は一気に大人しくなったそう。
そのまま活動もやめてくれたらいいんだけど…。

まぁそんな事がうまくいくわけもなく、それをいい事に騒ぎ出した連中も居たり居なかったり。

ただ水の屋と尾斗湖魔絵党が滅びたことで大きな影響力を与えたのに違いはない。

＂水の屋当主、水瀬凛太郎の死をもってこの事件は幕引きとする＂

酷く重たく感じる一文に胸が痛んだ。

やはり身内が死ぬというのは

『きっついなぁ…』

いい兄妹かと、いい兄だったかと問われれば頷ける関係ではなかった。

けれど目を閉じた先に浮かぶのはあの頃の優しい兄様の方が大きくて、あれは夢だったのではないかと思う。

握り締めた雪姫の柄で揺れる水色の勾玉、

『兄様…なんで持ってたんだろう』

あの人の首元に揺れていた同じ勾玉を思い出してまた胸が痛んだ。