この世界の片隅に3【土方十四郎】 (ページ28)

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百二十八ページ28

「なんとも思ってねェ相手が見舞いに顔出さねェくらいで沈むなんてこと普通はねーよ」

『なんとも思ってない相手…』

私は十四郎ちゃんに対して他とは違う感情を抱いている。

きっと旦那はそう言いたいんだと思う。それは私自身もわかっている、近藤さんや総悟くんザキちゃんには持っていない感情がある。

ーーけれどこれは恋愛とは違う気がする。

ドキドキもないしソワソワもしない。ただあるのは失ったら…と思う恐怖くらい。

それに、十四郎ちゃんにはミツバちゃんがいるわけだし…私の入る隙なんて…

(……あるわけない)

あの二人は誰が見ても相思相愛だったんだ。……総悟くんが暗殺をしてやろうと思うくらいに。

ただそれは成就することなく、天へと消えた。

その間に入るなんて私は出来ない。

『…きっと、気付いちゃ駄目なんですよこれは』

「気付いちゃ駄目ってなんだよ」

『刀振り回してるような女には綺麗すぎます』

＂恋＂

その言葉は一度だけ、蓮に対して抱えたことがある。だがそれも本当に恋と言えるものだったのか、幼い頃の恋心なんてもんはわからない。

だが今あの時に似ていて、何処か違うその気持ちに手を伸ばそうとしているのは嫌でもわかる。

……けれど、これは私には綺麗すぎる。

『私は真選組副長補佐、副長の背中を守るのが使命です。女としての幸せを捨てた私には痛いんです』

「ンな肩書きに拘ってんじゃねェよ」

旦那の目はいつになく真剣だ。神楽ちゃんと新八くんも何も言わずにそれを見つめているくらい。

死んだ目でもこんな目できるんだなと思っていればチョップが降ってきた。……考えてたことがバレたらしい。

溜息の後、旦那は言う。

「副長補佐がどんだけ偉いのかは知らねェけどよ、それと好きを認めらんねェってのは別の話だろ。てめェも意地張ってんじゃねェ、ちったァ素直になりやがれ」

妙に落ちたその言葉に頷けなかった。