百十二 ページ12
体に伝わる温もりは十四郎ちゃんのものだ。
抱き締められたと気付くのにこんなにも時間を要したのは初めてだった。
「こちとら何も考えずに伝えなかったわけじゃねェよ」
『じゃあなん』
「お前ェを壊さねー為だよ‼!」
十四郎ちゃんの顔は見たことないくらい歪んでいた。
なんて顔、してるんだろう。いやこれは私がさせてしまったのか。頬に触れるとその目が私を捉えた。
「ここ数ヶ月の事を考えたら言えなかったんだよ」
『十四郎ちゃん…』
「記憶取り戻した時放心状態になってたくれェだ、ンなもんまた知ってみろ、てめェ壊れてただろ」
私の為に隠していると何処か感じていた。
ーーー十四郎ちゃんがなんの理由もなく隠すわけがないと。
頬に触れていた手に十四郎ちゃんの手が重なる。
「隠していた事は謝る。だけどこれ以上お前を…Aを泣かせたかねェんだよ」
この場には似つかわしくない音が胸から鳴る。
なんでこんな時にこんな気持ちになっちゃうのかなぁ…情けないと自嘲が溢れそうになる。
でもこの状況でそうならないってのもおかしい話か。
( __最近甘え過ぎてた所為かな)
よくよく考えてみれば最近十四郎ちゃんの前で弱音を吐いてばかりだった。その所為かな、こんなに胸が騒がしいのは。
だけどこれはきっと、気づいちゃいけない感情だ。
それだけは分かっていた。
頬から手を離し、十四郎ちゃんから離れた。
『粛清、いつなの』
「A…」
『兄様だけは私が斬らないといけない』
その言葉に一つも迷いはなかった。
揺れた瞳はきっと心配からくるものだろう。まだ濡れている頬を拭い、十四郎ちゃんを見つめれば観念したように目を逸らした。
「3日後の深夜、出るぞ」
それに小さく頷いた。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年10月13日 21時