菫と果実《Kei.i》 (ページ33)

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・三十二ページ33

今までの夜が嘘だったように

この遊郭から慧様の面影がなくなった

あれからどれだけの月日が経とうと

もう姿を表してくれることは無かった

身請けを七日後に控えた晩

その夜はお客様を取らず、休養を取ることが出来た

いつも通り仕事をしていく中で進められる身請けの準備

その光景を見るととても胸が苦しくなった

女将「A、入るよ」

休養を取ろうとした時、襖の奥から女将が私を呼んだ

貴方「はい、大丈夫でありんす」

ガラッと襖を開けて入ってくる女将

その顔は初めて見るような顔をしていた

貴方「どうされましたか？」

女将「お前、身請けに乗り気ではないじゃろう」

貴方「、っ、」

女将「見ておればわかる

菫の時とそっくりじゃ」

唐突に出てきた菫さんの名前

貴方「そ、っくり、とは？」

女将「菫もお前のような顔をしていた」

そう言う女将は

どこか優しくて

ここの女将というより私達の母親のような顔をしていた

女将「お前はあの、伊野尾様と一緒に生きていきたいか」

貴方「え、」

女将「どうなんだい？」

貴方「わ、わっちは、

左衛門様に買われて幸せでありんす！

わっちのような小娘を、」
女将「もうよい、」

女将「今話していることは誰にも言うつもりもない

お前の素直な気持ちで良い」

そう言ってわっちの頬を撫でる女将

その瞬間温かいあの手を思い出して

ポロッ＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

貴方「わっちは、あの方といたいでありんす

慧様の傍におりたいです、」

女将「そうか、

そうじゃなぁ、おりたいなぁ」

そう呟いて女将は私を抱き寄せた