No.8 ページ8
．
「あ、おはよう」
『ッ……？！』
思ったよりも近かった私と彼の距離。
声にならない悲鳴をあげて勢いよく飛び退く。
そんな私の様子を全く気にしていない様子の彼は、身体を伸ばしてふわりと欠伸をし、私を見つめ直した。
寝起きだからか、とろけそうなほど甘いその表情。
こんな状況でもときめきそうだからからやめてほしい。
「大丈夫？昨日急に倒れたからビビった」
『だ、大丈夫、です、、』
「そう、良かった」
意外と穏やかに交わされる会話。
私は家主で、この人は突然現れた不審者なのに。
「で、昨日の話だけど」
ベッドに頬杖をついた彼は、楽しそうに私を見上げて、
「で、俺がイツキだって信じてくれる？」
昨日遮ってしまった話の続きを始めた。
ぐっと唇を噛む。
正直 信じるも何も、猫が人間になるなんてありえない。
ありえないんだけど……でも、少しぐらい話を聞いてあげてもいいのかな？
寝たせいか変な方向に冷静になっていた私は、
『じゃあ、、あなたがイツキだって証拠は、？』
彼にそう尋ねていた。
彼は一瞬だけ眉をひそめたけど、すぐにまたクールな表情へと戻る。
「証拠なら、俺が知ってるAのこと話せばいい？」
『え？』
どういうこと、と聞く前に彼は口を開いて話し始めた。
「AA。大学出てから上京して、今はOL。
彼氏は大学1年の時に別れて以来いない」
『え、』
「好きなものはナポリタンと休日の昼寝と……あと猫の俺。
嫌いなものはきゅうりと仕事。
趣味は特にないけど、強いていえばTwitterで愛猫の写真を上げること。
2年前にペットショップで売れ残って、ほぼ大人のサイズになってた俺を買ってくれたよね」
『ちょっと、、ちょっと待って』
「まだ信じてもらえない？じゃあ、、とっておきの情報」
澱みなく私の情報をぽんぽん上げていた彼は、突然私のお腹のあたりを指さす。
意図が分からなくて首を傾げてみせると、片方の口角を上げて悪戯に微笑んだ。
「ヘソの横に大きなホクロがある」
『……は？！』
．
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作者名：熊猫 | 作成日時：2022年4月15日 18時
