No.16 ページ16
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「Aさんって吉野さんと仲良いですよね」
『へっ、』
まさか自分に話題が振られると思わず、変な声が漏れた。
いくつもの目が自分に向けられて目のやり場に困る。
『そ、そうですかね?』
「どう見てもそうでしょ!吉野さんとどうやって仲良くなったんですか?」
『い、いや〜?心当たりなくて……』
いや、ある。説明がめんどくさいから言わないけどバリバリある。
少し前に(無理やり参加させられた)会社の大きな飲み会で、会場の外で1人気持ち悪そうにしていた吉野さんを介抱した日からだ。
後日、ほんとはお酒弱いのに寄って集って話しかけにくる女性陣の相手をしてるうちに結構飲んじゃったと教えてくれて、すごく感謝された。
別に、当たり前のことしただけなんだけどな……
それから社内で会うたびに気さくに声をかけてくれる。
正直吉野さんを狙う女性陣の目が怖いんだけど実害はまだないし、拒否する勇気もなくて今ってわけ。
「……Aさん」
『は、はい!』
いつの間にか戻ってきていた吉野さんに名前を呼ばれて慌てて返事をする。
私が身体を向けるより先に、彼の指が私に伸びてきた。
ん?
「髪、ついてる」
何かと思えば、肩に乗っていた毛をつまみ上げた。
よく見れば、蛍光灯にあたって金色に透ける、明らかにイツキの髪の毛で。
……あ、多分朝の甘えたモードの時についたんだ。
口から漏れ出そうになったため息をなんとか飲み込んで、吉野さんに頭を下げる。
『ありがとうございます。多分猫の毛です』
「猫飼ってるの?」
『はい。今日出る前にすごい擦り寄ってきて……』
嘘ではない。
「猫、ねえ……」
『……?』
摘んだ毛をじっと見つめたままそう呟いた吉野さんの真意は分からなかった。
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作者名:熊猫 | 作成日時:2022年4月15日 18時