No.38 ページ38
．
無事買い物を終えて、卵だけが入った袋を持って家へと向かう。
思ったより近かったなあ。
今度から2人に頼まないで自分で買いに行こうかな。
そんなことを呑気に考えてた私は、後ろからどんどん近付いてくる人に気付かなかった。
突然誰かに手首を掴まれる。
驚いてすぐに振り返った。
『……え、』
そこには もう二度と会うことはないと思ってた、
─お嬢ちゃん。父親の代わりに借金、返せる？
─金で払えないなら身体で払わなきゃな？
「やっと見つけた」
あの店のオーナーがいた。
その顔は必死に笑顔を作っているけど、抑えきれない怒りが私にまで伝わる。
なん、で……？
あの時健太に撃たれて、それで……
「A」
肌をざらりと撫でていくような声。
それだけで身体は勝手に震え出す。
力の入らなくなった手から袋が離れて、卵は呆気なく地面に落ちた。
「俺、"もう出てっていいよ"なんて一言も言ってないよなあ？借金も返しきれてねえくせに勝手にいなくなって。今までどこにいた？」
腕を強く握られる。
痛くて涙が出そうになる。
私、馬鹿だ。
逃げたからってあの店で身体を売ってた事実は無くならないのに。
健太はずっと、1人で家から出ないようにって私に言ってたのに。
あまりにも今の生活が穏やかだから、そんなことも忘れて。
「あいつらのせいでもう散々。
せっかく見つけたんだ。せめて上玉のお前だけでも連れて、あいつらの目の届かないところで営業再開しようか」
『嫌、……！』
無理やり腕を引かれるから必死に抵抗するけど、男の人に敵うわけがない。
1歩、また1歩と足を進めてしまう。
「抵抗しても無駄だって分かってんだろ？
お前は結局、俺の下で男に抱かれ続けんの」
『やめて、っ！』
「ッ、大人しくついてこいって言ってんだよ！！！」
オーナーが握りしめた右手を振り上げる。
殴られると思って目をぎゅっと閉じた。
……だけど、いつまでも衝撃がこない。
ゆっくりと目を開ければ、オーナーの右手は誰かに掴まれて止められていて、
「その手、離せ」
頭の上から、空気を震わす 冷たくて重い声が降ってきた。
なんで……なんでここにいるの。
『かずま、さん……？』
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 718人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「THERAMPAGE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
熊猫(プロフ) - ひなさん» ひな様。とってもあたたかいコメント、心に染みました；；更新頑張ります！ (2021年9月8日 20時) (
レス) id: 8e1b928499 (このIDを非表示/違反報告)
ひな(プロフ) - 今一番好きなお話です！これからも陰ながら応援しております！ (2021年9月7日 21時) (レス) id: aed219e8c6 (このIDを非表示/違反報告)
熊猫(プロフ) - るぶさん» るぶ様。優しいコメント本当にありがとうございます！今後も楽しんでいただけるように頑張ります。 (2021年9月6日 22時) (レス) id: 8e1b928499 (このIDを非表示/違反報告)
るぶ(プロフ) - 今すごく楽しませていただいてるお話です。楽しみにしております。頑張ってください！ (2021年9月5日 16時) (レス) id: 6e3ccbc5ee (このIDを非表示/違反報告)
熊猫(プロフ) - まめさん» まめ様。好きと言っていただけて本当に嬉しいです。これからも楽しんでいただけるように頑張ります！ (2021年8月31日 17時) (レス) id: 8e1b928499 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：熊猫 | 作成日時：2021年8月18日 16時
