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「くしゅんっ……！」
ズルズル、と小学校低学年生宛らにクシャミと共に垂れてきた鼻水を啜り、今となってはもう暖かさがあまり感じない使い捨てカイロをカシャカシャと上下に振る。
バスが到着するまでの間することもないAは、道の端に降り積もった踏みごたえのある新雪の感触に少しハマっていたのだった。……片栗粉みたい。
「……」
あのバスを急いで降りてから、どれくらい経ったのだろうか――。
停留所周辺の雪を踏み終えたAは、時間を意識しないよう、今まではわざと他のことに気を逸らしていたのだが、いよいよそれも限界のようだ。
気を抜いた途端、自然と浮かび上がってくるその疑問に、自身の事ながら眉を顰める。
こういう時は大抵、自分が予想している経過時間ほど現実では経過していないことは分かりきっている。だから、なるべく考えたくなかったのだけれど――さすがに無理か。
今回の旅行のために用意した暖かいノーカラーコートのポケットに手を入れ、幾分使っていなかったスマートフォンを取り出す。スリープを解除し、ロックのかかった画面には大きく15:20と照らし出される。
「えー……」
やはり前述の通りで、バスを降りてからあまり時間は経過していないようだった。
バスを降りてから、反対側のバス停留所まで来てみたは良いものの、バス停に張り付いた柔らかな雪を優しく手で払って時刻表に目を向けてみると、現在時刻に最も近いものとして、16時45分のダイヤが示されていたのだ。
その時刻まで、あと1時間と25分――。
若干肩を落としたところで気晴らしに、と空を見上げる。すると、空港に着いた時に比べ、日が傾き始めているのがわかった。
暗くなるのも時間の問題、か……。
ここら辺りは、道路があるため幾らか開拓されてはいるものの、それでもやはり殆どが木で囲まれており、何ら山中と変わりないのだ。……クマなどの野生動物と遭遇する可能性もないことはないだろう。
「……やめよ」
そうだ。余計なことを考えていても仕方ない。……いざとなったら荷物を全部投げ捨てて逃げればいいんだから。
なんとかして平静を保とうとしていたAは、自身の元へと近寄ってくる、雪を踏み鳴らす足音に気づくことはなかった。
そして、そんな彼女に声をかけた足音の主は――――
「こんなところで何してんだ、アンタ」
橙色の髪が特徴の、
白いマフラーを身につけた青年であった。
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作成日時：2019年2月10日 22時
