ページ ページ21
.
「実はね、私もサッカーやってるんだ」
なんの脈絡もなく突然告げられた、Aの一言。
すると、アツヤは先ほどまで進めていた足を突如止め、俯く。異変に気付いたAも足を止め、いつの間にか後ろにあったアツヤの姿を目に留める。
「……なら、初めから兄貴のことも知ってたのかよ」
行動に優しさが所々溢れていた今までの彼が発しているとは思えない程、低く鋭い声音。
只ならぬ異様な雰囲気を感じ取ったであろうAだが、臆することなく平然と言葉を続ける。
「私の場合はクラブチームだから、申し訳ないけどアツヤくんのことも、お兄さんのことも知らなかった」
「……そうか」
とても小さなアツヤの声は嘲笑のような、それでいてどこか安心したような音でもあった。
「でも、アツヤくんも私のこと知らなかったでしょ？」
「……」
「きっとそういうものなんだよ、世間って」
相変わらずアツヤの顔は下を向いており、今彼がどんな顔をしているのか、どんなことを思っているのか、Aは分からないまま。
しかしそれでも、彼女は一つひとつ丁寧に言葉を重ねていく。
「だから、わたし頑張るからさ」
――アツヤくんも頑張ってよ。
「他人に何を言われようと、私の知る『吹雪』は『アツヤくん』ただ一人だけ。優しいけど不器用で、人に寄り添ってくれる『吹雪』くんを私はこれからも応援してるから」
そっと優しく背中を押す、彼女の言葉。
ゆっくりと顔を上げたアツヤは、僅かに上がったAの口角に気づくと、珍しくも眉を下げて優しく顔を綻ばせた。
「そこは、せめてサッカーについて褒めろよ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2019年2月10日 22時
