休止符を無視する ―朔間凛月― ページ3
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「好きなら頑張りなよ」
――少し尖った、冷たい声音。
そんな言葉は、私の背中を優しく押してくれた。
***
「ピアノ……？」
――どこからか聞こえてくる、美しい音色。
普通科に在籍する私は、アイドル科の校舎に滅多に立ち寄ることはない。そもそも、ここへお邪魔する用事だってない。しかし今日は、目前と迫っている体育祭の準備で、偶然こっちの校舎にお邪魔していた。
そして、用事も済み、人気のない校舎を歩いている最中に聞こえてきたピアノの音。
綺麗で柔らかく、まるでシルクのように上品な音。私は何かに引きつられるかのように、音の聞こえる場所に向かって歩いた。
「こ、こんにちは……」
綺麗なメロディーを奏でる黒髪の男子生徒に、声をかける。すると彼は、鍵盤から指をゆっくりと離し、こちらへと顔を向ける。
「……なに」
赤い瞳――。何もかもを吸い込んでしまいそうな、その瞳に見惚れて目が離せなくなる。時の経過を忘れて彼を見つめていると「ちょっと、」と声をかけられ、そこで漸く我に帰る。
「おれの顔に何かついてる？」
「へっ……？」
「ずっと見てたから」
赤に惹かれ、どうやら相当見つめていたらしい。
顔をじっと見られて、いい気はしないだろうにと申し訳なく思い、早急に「すみません」と謝る。すると「いやべつに謝らなくていいし」と私に気を遣うわけでもなく、一定のトーンで返される。
……アイドル科の生徒なら、もうちょっと愛想良くしてくれてもいいのに。
「それで？ ここに何か用？」
――そうだ。私はその場の感情で、思わず初対面の人に声をかけてしまったのだ。特に理由も思い浮かばず、少し考えた後「迷っちゃって…」と咄嗟に出た苦しい言い訳を伝える。
……さすがにバレるかな。
案の定、黒髪の彼は「ここで？」と訝しげに私の顔を見る。しかし、このまま不審者扱いされてしまうのは御免である。必死に「あまりここの校舎には来たことがなくて」とそれっぽい言葉を繋ぎ合わせる。すると彼は、アイドル科とは違う私のボトムスの柄を見て「普通科？」と尋ねる。
「……はい」
「職員室に行けば教師がいるから、案内してもらいなよ。」
冷たく離される言葉に、ツンとした表情。彼が不機嫌なのは明らかだった。
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作成日時：2019年2月10日 22時
