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「ほんとうにお世話になりました」
「いーえ！Aちゃんと過ごせて楽しかった！また北海道に来ることがあったら、是非吹雪家に立ち寄ってね！」
「そうだね。再度来ることがあったら 今度は士郎も紹介するよ」
「はい、」
――ほんとうにありがとうございました。
車の窓越しに会話を交わす吹雪の母と父に深いお辞儀をしたAは名残惜しさを感じつつ、二人が乗る車に背を向けて歩いた。
＊＊＊
「……寒くないか？」
「うん、大丈夫」
西川家が宿泊する宿はもうすでに夜遅いこともあり、駐車場へと続く道は門で閉鎖されてしまっていた。そのため、吹雪の母と父とは駐車場の出入り口辺りの場所でお別れとなった。
車内でAの隣に座っていた――今では一緒に歩いているアツヤも、どうやらいつの間にか眠っていたようで、吹雪の母によって起こされたのはつい先ほどのことである。
大きな欠伸を零しながら「宿のエントランスまで送る」と彼に言われた時、はじめは拒んでいたAであったが、彼らの両親に「この子をお守り代わりとして最後までお見送りさせてあげて」と頼まれ、今までお世話になった人たちを強く断ることは出来なかった。
家を出発する直前に貰ったカイロを手に握るAは、宿へと繋がる道のりの数歩先を歩くアツヤの背中を追う。
「キレイ、だね」
これまでより口数の減ったアツヤを、どこか気にかけるように徐に綴られた彼女の一言。それは、彼女たちが歩く道の途中の夜景へと向けられたものである。
何気なく放った彼女の言葉ではあったが、確かに雪が幾分降り積もった辺りの景色と夜も更け灯りの少ない光の加減がよく調和し、日中に見た雪景色とは違う、幻想的な世界をそこで魅せていた。
「……そんなに綺麗か？東京だって、雪降るだろ？」
「うん、降るよ」
アツヤは斜め後ろを歩くAへと顔を向け、雪化粧の風景をじっくりと堪能する彼女の横顔を視界に映す。そしてその後の続きを彼は待つが、それ以上に言葉を連ねる様子のないAはゆっくり瞬きをし、どこか遠くを見つめるだけ。
「……変なヤツ」
出会ってから今まで予想を覆されてばかりの彼女に、アツヤがポツリと呟く。
すると、ふと何かを決意したように今度は彼女がアツヤの方へと視線を向けたのだった。
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作成日時：2019年2月10日 22時
