姉愛［44］｡進路一線｡ ページ44
｢小学生に進路決めて貰うってどうなの｣
率直に思った事を言った。
うっと言葉を詰まらせる治嗣。ボサボサの金髪を掻きながら｢どうしても決まんねーんだ｣を舌打ちする。八重歯が少しチラついた。
……ふむ。高校か｡
私なら雄英がいいと思うけど。
雄英以外でもヒーロー学校は多々あるし。
治嗣なら雄英でも何でも充分行けるんじゃないかな。個性的に。
｢ついでに雄英とかは無しな｣
…………は？
｢何言ってるの治嗣、君なら｣
｢駄目駄目。俺ヒーローになる気無いから。人助けとか興味ないねぇし。人嫌いだし。どっか楽な高校行きたいの｣
顔の前で手を振りながら、面倒臭そうに言う。
が。言い分とはそぐわない瞳をする治嗣。
｢ヒーローになりたい｣と。
希っているようにしか見えない。
｢治嗣｣
同じだ。
焦凍と出久と勝己と。よく綺麗な似た目だ。
あのヒーローに憧れている人間の輝いた目だ。
｢どうして嘘をつくんだい？｣
｢嘘じゃねえ｣
｢嘘だ。憧れてるんでしょ｣
私が大嫌いなあの人に。
｢彼に憧れているから。なりたいんでしょ｣
No.1ヒーローであるあの人。
｢オールマイトに｣
｢………………っ｣
やっぱり図星だったか。
オールマイトの名前を出した途端。
口を結ばせ眉間にシワを寄せた。
分かり易く子供のような純粋な反応。
いつまでもフレッシュな治嗣の端正な横顔を無言で見つめた。
初めて会った時、君に聞いた昔話。
大災害に巻き込まれてコンクリートに両腕を潰されて。炎の中で泣き叫んで助けを求めて。まだ無名だったオールマイトに救われたって話。
きっとそれが憧れのきっかけなのだろう。
君はとても透き通った人だ。きっとそう。
｢やっぱ………。全部見抜かれちまうな｣
強ばった表情を一気に和らげる。
最初から本音を言えばいいのに。
｢本当はヒーロー学校に行きてぇ。でも俺の個性戦闘とか全然不向きだし使えねぇし｣
確かに。治嗣の個性は戦闘には使えない。
確実に医療方面の方が向いていると思う。
｢でも。ヒーロー全員が戦えなければならない決まりはないよ｣
｢え？｣
｢ヒーローの形は人それぞれにあると思う｣
治嗣の橙色の双眼が漣みたいに揺れる。
私は唯、自論を語り続けた。
｢戦うだけがヒーローじゃない｣
少しでも君に勇気を灯してあげたいから。
｢助けを求める者に無条件で手を差し伸べる｣
それが。本当の“ヒーロー”だと思うんだ｡
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
