姉愛［37］｡最高傑作｡ ページ37
母さんが殴られた。
母さんが血を流した。
母さんが哀に堕ちた。
それを見た瞬間。
腹の奥底から何かとてつもなく熱いモノが沸々と湧き上がって来た。それはストッパーが耐え切れず壊れ、器から飛び出してしまった私の感情なんだと思う。
今まで否定してきた様々な感情。
それが今。滑稽に暴れ乱舞する。
｢私を完璧に作り上げればいいだろ！｣
叫ぶ。
｢私だけを物として見ていろ!!｣
叫ぶ。
｢私を最高傑作にしてみろよ!!!｣
叫ぶ叫ぶ。
自分でも驚くほどの大声が唇から落ちてゆく。
目を見開くクソ親父に向かって叫喚を続ける。
もう何も目に入らない。心はもう失明した。
ただ。母さんを、焦凍を傷付けた目の前のこの男が憎い。今まで私に蓄積されてきた全ての感情をこの男にぶつけるしか。
今はそれしか。
考えられない。
パキパキパキっ。
腕や頬に氷が張った。
｢落ち着けA嬢!!｣
｢ねーねぇっ………!!!｣
聞こえない。
何も聞こえない。
愛する焦凍の声でさえも今は唯のノイズ。
｢俺と殺り合う気かA！｣
｢黙れ｣
胸糞悪い声を出すな。
｢ぐぁっ……！｣
腹に蹴りを入れてやる。
しかし直ぐに足を掴まれ、圧倒的な力差で押さえ付けられてしまう。
｢離せっ！｣
｢生意気だと何度言えば分かる!!｣
分かるか。
分かりたくもない。
顔を殴られ腹を殴られ。
痛覚なんて感情のせいで鈍りに鈍っていたから痛くはなかった。
怯んでいるのかは知らないがいつもより迫力が弱い。
｢私はお前が嫌いだ！ 憎くて憎くて殺したいほどにだ!! お前を一度も父親だと思ったことなんて無い………!!!｣
｢っ黙れ！ 黙れA!!｣
心が痛い。胸が痛い。
全身が痛い。誰か助けて。
何故か乞うていた。
誰にでも無く乞うていた。
私は私を助けてくれる筈の誰かを無意識に、知らぬ間に求めていた。落ちたものだ。他人に縋るようになるとは、無能人間じゃないか。
────…。
霞んでいく視界の端で。
泣きじゃくる焦凍の姿が見えた。
嗚呼、ごめんね焦凍。
私は駄目なお姉ちゃんだね。
所詮は何も出来やしない。
君を。たった1人の弟も守れない。
唯自分勝手に生きて来ただけ………。
今までの10年間は一体何だったんだ。
膨大な時間の中で、私は何をして来た。
一体何を変えられた。
私は、私は唯の、
馬鹿で自己中な人間だ。
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
