姉愛［36］｡窮地地獄｡ ページ36
颯輔side
｢…………っ！｣
｢っねーね！？｣
｢Aちゃん!!｣
咄嗟にチビ助を庇いに飛び出したA嬢。
炎司の右手から意図的に放たれた真っ赤なそれは彼女の背中を焼き払った。
痛々しく腫れ上がる本来綺麗な背中。
青ざめるA嬢のお母さん。冬美ちゃん。
｢……………｣
俺も言葉を失ってしまった。
チビ助を抱き締めるA嬢を見た炎司が自身の右掌を睨み、苦しそうに目を歪めたのは俺の気の所為なのだろうか。
｢邪魔をするなA｣
｢……｣
｢何故焦凍の個性が発現した事を黙っていた｣
｢……｣
何も答えないA嬢。
俯いていて表情が伺えない。
｢ごめんなさい｣
突然の謝罪の言葉に皆がギョっとした。
｢お願いがある｣
｢……………何？｣
いつも以上に鋭く真剣な眼差し。
乞うように炎司を見上げ、痛む背中に鞭を打ちチビ助を庇う形で立ち上がった。
｢焦凍を鍛えるなら私にもやらせて欲しい。
貴方と私の2人で半分づつの時間にして欲しい｣
｢！？｣
あのA嬢が土下座をした。
気高く屈する事を何よりも嫌うプライドの高いあのA嬢が。
弟1人の為にその重い頭を床に擦り付ける。
胸が痛む。軋む。
｢A嬢………っ｣
もう、チビ助を守りきる事は無理だと判断したんだろう。それでも何とか自分が受けた痛みよりチビ助にかかる痛みを減らそうとしている。
こんなに複雑な葛藤は見た事が無い。
｢俺と2人でこの…予備を鍛えると？｣
無理矢理に予備なんて酷い言葉を絞り出す炎司。
｢駄目だ。焦凍はお前の予備でありながら、お前に次ぐ“最高傑作”になり得る能力を備えている｣
どちらも辛そうだ。
A嬢も炎司も。
何なんだよこの不器用な父娘は。
｢それを見す見す無駄にして堪るものか｣
少し声量を低くして言いやり、
威厳を示すように床を蹴りつけた。
｢いい加減にして下さいあなた！
Aちゃんに酷い事しないで!!｣
｢っ………お前は口を挟むな!!!｣
バチンっ！
苦を爆発させ平手打ちを振るった。
反動で倒れ込みそうになるA嬢のお母さんを慌てて受け止めに走る。
何とか華奢な肩を支えた。
その、瞬間。
少しだけ見えるA嬢の横顔が、
ドス黒く染まっていった気がした。
その身体中から怒りが一気に溢れ出る。
ヤバイと冷や汗を流した時にはもう手遅れで、A嬢の覇気と威圧がこの空間を支配していた。ピリピリと髪の極先が縮れる。
｢母さんに…母さんに何をした｣
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
