姉愛［32］｡一生懸命｡ ページ32
｢お、お姉ちゃん……？｣
大粒の涙を顎に溜めながらポケっと間抜けな顔をする出久。掴んでいた狭い肩から手を離し、人差し指で目尻の雫を掬った。
端正な翡翠の瞳が私を見上げる。
｢無個性はヒーローになっちゃいけないなんて法律でもあるのかい｣
｢無い………けど｣
控え目に答える出久に頷く。
そうだ。そんな下らない法律は無い。
誰が無個性はヒーローになってはいけないと決めた。
事例が無いから。
力が無いからヒーローにはなれない。
きっとそういう先入観だ。
｢私は個性を持て余して将来ヒーローになりたいなんて抜かしてる馬鹿と、個性が無いからこそ努力を欠かさず夢を見ようと懸命に足掻く君の方が｣
君の潤んだ瞳をしっかり見据えて。
｢よっぽど好きだよ｣
瞬間。
出久の瞳から涙がドバドバっと溢れた。
しゃくり声をあげ｢お姉ちゃん｣と繰り返す。
泣き続ける出久を抱き締めて、ふわふわの髪を落ち着かせるように撫でる。
初めてなんだろうな。
他人にこうやって言われたのは。
｢僕っヒーローになりたいっ！ ホントはノートだってもっともっと増やして!! いっぱいお勉強したい!!」
｢うん｣
｢諦めたくない！ ヒーローになりたい…っ!!｣
私にしがみついて大きく叫ぶ。
｢じゃあそうだな。君が大きくなったら、私のヒーローになってくれる？｣
｢ぐず………ぇ？ お姉ちゃんのヒーロー？｣
首を傾げる出久にうんと頷いて見せた。
君には、何か期待出来るモノを感じるんだ。
焦凍にも勝己にも感じないモノ。
才能や個性じゃない。
特別な何かを感じる。
｢駄目かい？｣
｢っううん！ 僕お姉ちゃんのヒーローになりたいよ！ 僕を救けてくれたお姉ちゃんのことかっこよく救けてあげたい!!｣
へぇ。言うね出久。
｢なら約束しよう。私のヒーローになってくれるって」
指切りげんまんだ。
小指を差し出すと、出久もクシャっとしてから丸々とした小指を前に出した。
｢あともう1つ｣
｢…………？｣
｢将来の為のヒーロー分析ノート。コレも欠かさずに書いてほしい。次会える時まで楽しみに待ってるから｣
言って、4冊のノートを出久の手に握らせる。
少しの間キョトンとしていたがすぐに｢分かった約束！｣と笑ってくれた。
｢じゃあまたね｣
｢あっお姉ちゃん｣
ん？ と首を傾げた。
｢ありがとうっ！｣
頬がスっとたわんだ。
私はいつの間にか。
｢ふふ。どう致しまして｣
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
