姉愛［31］｡無下努力｡ ページ31
少年side
【諦めた方がいいね】
【ごめんっごめんねぇ!!】
【やーい無個性〜っ！】
僕はもう駄目なんだ。
もうヒーローになんて。
｢っぅう………｣
何で？ 何で僕なの？
一生懸命書き溜めた4冊のヒーロー分析ノート。力いっぱい抱き締めて、憧れのヒーローに別れを告げる。さようなら。
僕には無理だから。
何も出来ないから。
かっちゃんの背中を見てるだけでいい。
目を強く瞑り、水の中へノートを放った。
その光景を見たくないから。
見えないように目を閉じて。
さよならを──
パシっ。
｢駄目だよ。捨てちゃ｣
｢………………。えっ？｣
どうして。誰なの。
どうして？ 諦めようとしたのに。
｢君はここで折れていいような人間じゃない｣
もうっ夢を見るのは止めようって……！
決心したのに!! どうして邪魔するの！？
｢無理だよっそのノート今すぐ捨てて!!｣
誰かも分からないお姉ちゃんに抱き着いてお願いする。甘い香りが頬をかすった。
初対面の人に希望を貰おうとしちゃ駄目だ。
このお姉ちゃんだって僕が無個性だって知ったら、皆と同じように馬鹿にして虐めてくるに決まってる。
｢捨ててそんなの要らないからっ！｣
｢嘘つけ｣
ガっ。
｢！？｣
突然、両肩を掴まれた。
割と強めに手を置かれる。
お姉ちゃんの綺麗で真っ直ぐな黒い瞳と、嫌でも目線が交わって。
とっても苦しい。見ないで。
どんどん。涙が零れてくる。
｢今のは嘘だ。君は本心からこのノートを要らないと思っていない｣
見透かしたようなお姉ちゃんの黒い瞳。
｢ホントに要らないの！ だって…だって頑張って！ 努力したって僕は無個性なんだもん!!! 僕はヒーローになれな｣
｢自分で言うな｣
｢ぅんむっ｣
お姉ちゃんの白い手に口を塞がれた。
その先をどうしても言えなくなる。
｢自分で言ったら本当に終わるよ。出久｣
っ何で僕の名前！？
｢君のことは勝己からよく聞いてる。無個性だって事も知ってる。何も出来ないからデクって呼ばれてる事も｣
……かっちゃんと知り合いなんだ。
お姉ちゃんもきっと僕のこと。
｢勉強を頑張ってて苦手な事があれば一生懸命練習する真面目な子って事も。ヒーローが誰よりも大好きで、ヒーローを誰よりも知り尽くしてるって事もよく知ってる｣
え？ お姉ちゃん…………？
馬鹿に、するんじゃないの？
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
