姉さん、愛してる。Ⅰ (ページ26)

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姉愛［26］｡理解肯定｡ページ26

　
　
　
｢ほいレモンティー｣

｢……………どうも｣

すぐ手許に出されたそれをぼーっと見下ろす。

程よい酸味と甘味が好きだった筈なのに、今は口に含む気にはなれない。どうしてだろうか。喉が無気力に狭まっているみたいだ。

｢勝己、ちょっと部屋戻ってて？
Aちゃんと2人で話したいから｣

｢はぁ！？それなら俺だって｣

｢いいから戻りなさいっての｣

｢わぁっ離せクソババアー!!｣

捕えられた獣のように暴れる勝己を軽々と担いで、廊下の方へ歩いて行く光己さん。

｢ごめんねAちゃん。ちょっと待っといて｣

無言で頷いておいた。

気を遣わせたかな。

｢はぁ………｣

胸ポケットから携帯を手に取る。

起動させた瞬間溢れる通知。
全部冬美姉さんと母さんからだった。

私を心配してくれたのだろう。

けれど、私は母さんの方が心配だ。

焦凍の個性が発現してからと言うもの、疲れた様子で無理に笑ってるから。

｢Aちゃん顔暗い｣

｢……いつから居たの｣

｢たった今よ？｣

はにかみ、向かいの椅子に腰掛ける。

｢また何かあった？悲しそうな顔して」

耳を疑った。

悲しそうな顔だって？

｢そんな顔してないよ｣

｢してる。見てるこっちが辛い｣

………。この人やっぱり変わってる。

貴女が辛くなる理由なんて無いのに。

｢お母さんの事？それとも弟君？｣

何でこんなに鋭いんだ。

前だってクソ親父のことで苛ついてた時｢父さんと何かあったでしょ？｣って頭撫でられたし。

｢焦凍の個性、炎と氷結だった｣

｢！ ……そう。焦凍君もか｣

悟ったように睫毛を下ろす光己さん。

この人には、ある程度の家庭事情は話している。勿論自分から進んで話したわけじゃない。

話さざるを得ない状況に追い込まれたからだ。

いい意味で積極的な人だから。光己さんは。

｢それでそんな目してんのね。勝己も呆然とする訳だ｣

｢呆然？｣

｢気付かなかった？あの子Aちゃんの目を見た途端この世の終わりみたいな顔してたのよ」

この世の終わりって随分大袈裟な。

｢あの子にとってAちゃんはそれだけ大切な人なの。貴女が悲しそうにしてたり苦しそうにしてたら、あの子も同じように辛くなる｣

｢そんなこと｣

｢あるの。あの子の目が潤んでた｣

唇が閉じられる。身体が波打った。

真っ直ぐ過ぎる眼差しに有無を言えない。

｢Aちゃんだけなんだよ。
勝己が純粋な子供らしい笑顔を見せるのは｣

何かを、言える訳がなかった。