姉愛［02］｡母娘父娘｡ ページ2
｢Aちゃん…ごめんなさいっ｣
私の手当をしながら、涙ぐむ母さん。
やめてよ。貴方にはそんな顔似合わない。
｢良いんだよ母さん」
｢でもAちゃ」
｢それに」
それに…。母さんが無理に止めに入って、それで怪我でもしたら大変でしょ。私だってそれが一番怖いもの。
言うと、余計に辛そうに顔を歪められた。
そんな顔をさせるつもりじゃなかったのにな。
｢Aちゃん……」
震える手で私を抱き締める。
個性は氷だけど、この人はとても暖かい。
この暖かい感じが何かは知らないけど悪い気はしない。寧ろこれは。
｢母さんだけは傷付かないで」
細くて綺麗な母さんの手をそっと握った。
ボロボロと涙を流し｢Aちゃん、Aちゃん｣と私の名前を繰り返す。
ごめんね、母さん。
貴方に涙を流させるなんて。
私は駄目な娘だね。ごめんね。
｢おい｣
｢っ………ぁ、あなた｣
クソ親父………………。
何の前触れもなく、襖を開けて部屋に入って来たクソ親父。震えながらも私を守るように抱き締める母さん。
胸に空いた穴へ冷風が通り抜けた気がした。
｢何｣
｢お前に話がある｣
私に話？
……母さんの前では言えないことか。
｢分かった｣
心配そうにする母さんに｢大丈夫｣と伝えて。
腰を上げた。
拒絶反応を起こしながら無駄にデカい背中を追う。暫く歩くと、広い客間に入れられた。
｢話って何なの」
｢来年からお前も小学生だ」
だからなんだよ。
｢無論。俺の満足するレベルの高い小学校に行って貰うからな。常に1番であれ。差をつけ続けろ｣
｢…ふん｣
｢何だその反応は」
何が1番だ。
何が差をつけろだ。
｢下らない｣
｢…何だと？｣
ピクリと眉を動かすクソ親父。
なんだ？ 怒ったの。
別に恐くないけ─
バキっ!!!
｢ぃっ｣
手加減無しの回し蹴りをモロにくらい、
私の体は後ろのガラス棚に打ち付けられた。
燃えるような痛みが背を襲う。
無表情が少し崩れた。
｢まだそんな口を聞くかA｣
｢名前を呼ばないでくれる？ 胸糞悪い｣
｢っ貴様!!｣
とうとうブチ切れたらしい。
クソ親父の左手に大きな炎が灯される。
｢生意気だぞ!!!｣
眼前に赤色が広がった。
……けれど。
｢待ってお父さん!!｣
その赤色は空気に散った。
恐怖と怒りと悲しみで熱く腫れ上がったような冬美姉さんのその声が、嫌に鮮明に鼓膜に触れて。
どうして来たの。冬美姉さん。
貴方は、来ちゃ……駄目だよ…。
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作者名：よる。 | 作成日時：2016年9月21日 16時
