今夜も君と見る夢を望んでしまう (ページ8)

今日:35 hit、昨日:47 hit、合計:41,707 hit

特権的距離感/Lily ページ8

『Aさんすみません、お願いがあるんですけど....』

私よりも15cmは低い位置からおずおずと相談してきたのは

劇場に入って間もない新人スタッフちゃん。

男性の好きな上目遣いの破壊力とはこの事かと

内心納得しながら、不安そうに視線を向ける彼女に微笑んだ。

「そんな申し訳なさそうにせんでええよ笑

あの倉庫の機材やんな？

高いとこにあるし危ないから私が持って行っとくわ」

『ほんとですか...！ありがとうございます！！！』

心底安心したような顔に女の私も思わずときめいてしまう。

何度もお礼を言いながら次の仕事場へと向かう新人ちゃん。

素直で働き者で健気、おまけに美人で小柄な容姿。

それに比べて私は、愛嬌も無ければ美人でもない。

そして自身の最大のコンプレックスでもある、

男性にも引けを取らないほどの高身長。

学生の頃からこの身長には何度も悩まされてきた。

万年黒板消し係にフォークダンスの男役、度重なる年齢確認。

それだけならまだしも、勇気を振り絞った告白は

「自分より背高いとか、女として見られへんわ」

心無い一言で一蹴されてしまった。

妬む隙すら与えてくれないほどに非の打ち所のない

彼女と正反対のを比較しては、日々自己肯定感をすり減らすばかりだった。

手の届かない所にある物を、何も言わなくても

誰かに取って貰える彼女が羨ましくて仕方ない。

そんな汚い感情を払拭するかのように急ぎ足で倉庫へ向かった。