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半ば強引に、機材を途中まで運んで貰う事になり
他愛も無い話をしながらリリーさんと廊下を歩いていく。
「そう言えば、どうして倉庫にいるって分かったんです?」
『スタッフの子に聞いたんよ。
久しぶりにAちゃんの顔見たかったし』
相も変わらず、恋愛ドラマのような素敵な台詞を
恥ずかしげも無く口にするリリーさん。
彼が劇場に居た時から想いを寄せていた私は
その台詞の対象が自分だけでは無いということを痛感している。
そう分かっていても、彼の何気ない一言は私の頬を緩めるには十分すぎるくらいで、
表情を悟られないように慌てて顔を背けた。
『さっきの子って新人?』
「そうです。まだ入社して1年目だけど、凄く頑張り屋で良い子なんですよ」
『そうなんや。確かに礼儀正しかったな』
談笑中のほんの何気ない会話。
それなのに、つい先程まで見苦しい嫉妬心を抱いていた
新人の彼女の話題になっただけで胸の奥が少しだけ痛んだ。
『あとめちゃくちゃ緊張しとったわ』
「実はあの子、見取り図さんのファンなんですよ!
よくSNSとかもチェックしてるし、
いつか劇場で会えるのが夢だって言ってましたよ!」
『そうなんや?嬉しいなあ』
「今劇場内でも大人気なんですよあの子
ほんとにいい子だし美人だし、でもちょっと抜けてる所があって可愛くて....」
『へー、確かに何か小動物っぽい子やったな』
「この前なんか______」
また胸の奥がズキズキと痛んだ。
言いたくもないのに、広げたくもないのに、
馬鹿な私は彼女の話題をどんどん展開してしまう。
「____ね?めちゃくちゃ可愛いですよね」
『そうやな』
彼女の可愛らしいエピソードに微笑んで頷くリリーさん。
羨ましいな。
可愛いって言われてみたい。
私のことも見て欲しい。
散々自分から話を振っておいて
どうしようも無い嫉妬心に駆られる自分に耐えられなかった。
『でも俺は、』
「あ!もうこの辺で大丈夫です!
本当にありがとうございました!助かりました!」
汚い感情を悟られないように、
機材を抱えて逃げるかのように部屋に駆け込んだ。
その時のリリーさんの表情は怖くて見ることが出来なかった。
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あんこ(プロフ) - 見取り図が好きなのでどちらもドキドキしました!🫶🏻特にリリーさんの話でコンプレックスが出ちゃうシーンとかすごいよかったです!夜中さんのペースでいいですので更新楽しみにしてます✨ (2月15日 12時) (レス) id: 262806c1af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夜中 | 作成日時:2021年6月21日 9時