今夜も君と見る夢を望んでしまう (ページ1)

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着飾った裏側 / M.Shintaro ページ1

『これでよし！』

いつもよりも早めに仕事を切り上げて

職場の化粧室でメイクの確認。

少し早起きして念入りに巻いたカールも崩れてない。

睫毛もちゃんと上向きだ。

新作のリップとチークも肌に良く馴染んでいる。

今日も完璧！

鏡に向かって微笑んでから化粧室を後にする。

「あ、Aさん！今日はお早いんですね。

あの、もし良かったら今夜食事でも....」

『お誘いありがとうございます。

でもすみません。今夜は先約があるので。』

部署でもそこそこ人気な男性社員の誘いも

きっぱりと断って、いそいそと会社を後にする。

すれ違った同僚から向けられた冷ややかな視線も

今日の私にとっては痛くも痒くもない。

なんてったって、今日はあの人に会えるから。

はやる気持ちを抑えて、私は劇場に向かった。

きっと部下も同僚も先輩も、

まさか私がお笑いを見る為に仕事を定時で上がっているなんて

思いもしないだろう。

そう、私は月に１回

お笑いを見る為だけに仕事を定時で切り上げて、

女性社員からの冷ややかな視線を浴びながら、

この漫才劇場に向かっているのだ。

きっと彼女達がこの事を知ったら拍子抜けするだろう。

それでも私にとってお笑いを見ている時間、

正しくは長年想いを寄せる相手が活躍しているこの場に訪れる事が、

何よりの楽しみであり活力なのだった。

『やっぱり晋ちゃん凄いなぁ....』

舞台上で笑いの力で観客を魅了している彼の姿は

私には誰よりも輝いて映った。