天穹ソルティ【ハイキュー】【及川徹】

plain ページ45

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「Aね、おいしい方がすき」


「うん．．．？」






それは唐突すぎて、やっぱりよく分からない。それでもAが一生懸命言葉を紡ごうとしているのだけは分かって、黙って続きを待った。


Aが言葉に悩んでいる、何かに悩んでいる姿は初めてだった。





「すももがすき、うどんがすき、いっぱいすきなの」


「うん、うん」





Aからすき、という言葉を聞くのが好きだった。


Aのすきは、俺たちが何気なく口にするそれじゃなくて、愛おしいものを抱え込むみたいで、心が温かくなる。小さなしあわせの欠片を、積み重ねる行為に思えた。





「あのね、おいしいものがすきなのは、徹が教えてくれたからなの」





目を見開いた。


時間の流れが、一気に遅くなる感覚が襲う。


Aが梅の枝から手を離し、俺を覗き込んできた。


星が瞬く、綺麗な天穹が広がる瞳。あの日から広がり続ける穹が見えた。





「徹がいないとさびしい」


「．．．岩ちゃんが教えてくれたんだったね」


「徹が悲しそうにしてるのは、かなしい」


「あの時はAびっくりしたよね。いきなり俺が泣いたから」





今思い返せば、どれも何気ない日常だった。それなのに、これ程忘れがたく、愛おしい思い出ばかり。





”わからない”


”おいしい。おいしいすももをくれて、ありがとう、ございます”


”よばれてないけどきてやったぜ”


”徹がかなしいのは、いや。だからいっしょに見る”


”Aね、徹がいなくてさびしかった”


”ぬいぐるみ、もらった！”


”A、高校にいきたい”


”徹といっしょの学校にいけるの、うれしい”





Aに出会ってからの毎日は、いっとうしあわせな日々だったんだ。


俺の視界が、夜空色に変わっていく。








*plain．．．あっさりした味。また、味のしない様。

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