zesty ページ44
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梅の並木道は、まだまだ続いていた。
「もうすぐAも青城に通うのかあ...」
「うん。たのしみ」
空を仰いで思わず口にした言葉に、意外にもAが返してきた。彼女が自覚できている感情はまだまだ少ないけれど、幸せなことに気づけるようになってほしいから、その成長は嬉しいかった。
Aと出会った夏のあの日から、もう七ヶ月が経っている。
今でも思い出せるあの惨劇から、彼女は大きく変化していた。身長も140cmを超えたし、無事に受験を突破し、五月から高校に通うために毎日生活に復帰するサポートも受けている。もう俺が心配せずとも、彼女は十分に生きていけるのだろう。
そう思うとなんだかいつもより空が蒼く澄んで見えた。
「...あるけない」
ふいにAが立ち止まって俺を見上げてきた。確かにかなりの距離を歩いてきてしまった。宮城の春はまだ訪れていない。気温が5℃もない中では、Aの肉のない体に堪える。珍しく嬉しそうなAに驚き気づいてあげられなかった。
杖を持たせたまま左腕で背を支え、右腕を膝を覆うように回して彼女を抱き上げた。彼女の体は本当に軽い。これが彼女を形作る体の重みだと思うと、鼻の奥がツンと傷んだ。
俺が悲しんでどうする。
「そろそろ戻る?ごめんね、寒かったよね」
「...ううん。もどらない」
Aは首を振った。そして、梅の木の枝に手を伸ばした。俺が梅の木に近付けば、そっと先端の花に触れる。日が差し込み、梅の花が薄く色付いてAの顔に、手に、色水のような影を落とす。
それが大層幻想的な光景に思えて、思わず声を上げた。
「どうしたの?」
「...徹がだっこしてくれるから、花にさわれる」
それはそうだろう、と言葉の意図が分からず眉を下げた。Aの考えていることは、時々難しくて、謎めいている。
*zesty...香り豊かで美味い。強い香気と刺激が食欲をそそる美味さ。
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ゆん(プロフ) - 素敵な作品で続編が気になってしまいました💦期間限定とのことですがすごく感動してます😭 (2022年9月28日 19時) (レス) id: d0dd043faf (このIDを非表示/違反報告)
桃缶(プロフ) - たくさんの温かいコメント、本当にありがとうございます。失礼ながら個人への返信は控えさせて頂きます。どうでもいい話ですけど、BGMはUruさんの『あなたがいることで』がオススメです(笑)ぜひ聞いてみてください。 (2020年5月9日 16時) (レス) id: 429c5bc4b5 (このIDを非表示/違反報告)
なむなむ(プロフ) - すごくいいお話でした。この作品を読んでアンチコメントとかする人はいないですよ!!いい作品ですもん。色んな人に読んでもらいたい作品です! (2020年5月9日 13時) (レス) id: 2521c199da (このIDを非表示/違反報告)
メビ(プロフ) - とても素敵な作品だと思いました!期間限定なのが惜しいくらいです。感動をありがとうございました! (2020年5月9日 12時) (レス) id: ee2ddb04ba (このIDを非表示/違反報告)
露亞(プロフ) - これ…期間限定公開なんですか?も、勿体ないです!!凄く素敵な作品でした……!! (2020年5月9日 10時) (レス) id: 5fe7b44b45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリンギ(サブ垢) | 作成日時:2020年4月24日 10時