天穹ソルティ【ハイキュー】【及川徹】

smoky ページ4

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ジリジリと蝉が鳴る。





「思ってたより全然良い暮らししてるじゃん」


「そうねえ。って徹！」





自分だって頷いたくせに。


俺たちの住む町から車で一時間半の街外れのマンションに、かずひこさんは住んでいた。中々綺麗なマンションだ。そこそこの収入を得ていないとこの暮らしは出来ないだろう。


つい先日夕食で出た話題が、母ちゃんたち親戚の女性のお茶会で話題に上がったらしい。かずひこさんを心配しているからと、母ちゃんが代表し、俺の練習がoffの月曜日を利用して彼の家を訪ね近況を聞く事になったのだ。主婦の行動力を舐めちゃいけない。


せっかくの夏休みがこうして一日潰れた俺としては、不満しかないが。


それも、貧困を心配していた親戚が普通の暮らしをしていそうなのだから尚更だ。





「それにしても、不思議よねえ。あの子の住民票と戸籍はどこに行っちゃったのかしら？」


「それ！どうせ母ちゃん達の見間違いでしょ！」


「あら、そんなはずはないのよ？」


「だったらそんな戸籍は存在しないとかお役所に言われるわけないよね？」





さちこさんが亡くなる直前、本当に数日前に子供が産まれたという報告を、さちこさんの父親の充大伯父さんから聞いていたそうだ。ただ、かずひこさんはさちこさんの葬式を済ませて以来、一度も大伯父さん達に顔を出していないらしい。


そして、俺たち親戚は誰一人としてさちこさんの出産に立ち合っていない。





「不慮の交通事故だったとか。佐知子さんはまだお若かったから、ねえ。まだ赤ちゃんの名前も決めていないって言ってたし」


「とっとと会ってとっとと帰ろう。この様子だとかずひこさんだかかずひろさんだか知らないけど元気でしょ。子供もきっと元気だろ」


「そうねえ。そうだといいんだけど」






そう言いつつ綺麗なマンションの中に入る。玄関口にセキュリティが無くてよかったと思う。ここまで来て門前払いとか笑えない。








*smoky...スモーキー、燻製の香り。

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