天穹ソルティ【ハイキュー】【及川徹】

tart ページ13

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彼女はやっぱり歪だ。





「いただきます。A、食べ物をいただく時はいただきますって言うんだよ」


「．．．いただき、ます」


「召し上がれ！」





Aが我が家にやってきて初めての食事だ。


今日は父ちゃんが遅番で家にいないから、母ちゃんと俺と、Aの3人で食卓を囲む。母ちゃんは嬉しそうに俺の隣に座るAを見ていた。


Aはそんな母ちゃんを不思議そうに見つめている。


一向に箸に手をつける気配はない。





「A？早く食べないと冷めちゃうよ？」


「？」





俺の言葉に、ことりと首を傾げる。彼女のために特別に作ったうどんの湯気が鮮明に見える。


Aは生まれてこの方ちゃんとした固形物を食べたことがない。生ゴミや残飯、時々与えられる飲料ゼリーが彼女の命を食い繋いでいたと知った時は心底驚いた。だから歯や顎の筋肉が十分に発達しておらず、今日出された牛丼なんかとてもじゃないが食べれない。


もしかして、箸が使えないのだろうか？





「もしかして、箸が使えないのかしら？」


「A、箸は知ってる？」





俺が自分の箸を持って見せれば、Aは無機質にそれを見ながら、





「．．．東アジア地域で使われる食器の一種」





先程まであれほど拙く俺の言った言葉を繰り返していたにしては、やけに流暢な言葉だった。


嫌な予感がする。





「A、箸は持てる？」





俺の言葉に、サッと自分の目の前に置かれた箸を持つA。癖のない、普通の持ち方だった。むしろ、綺麗な方だろう。


うどんを食べれない理由はどこにもない。





「Aちゃん、人間は生き物だから、ご飯を食べないと生きていけないわ。だから食べましょう？日本人はお箸を使うのよ。Aちゃん、よく分かっていたわね」





よくわかっている。それどころかまるで辞書から飛び出してきたような文章。


母ちゃんが促しても、Aは無機質に目を瞬かせるだけだった。


一向に話が通じないのは、恐ろしい。やっぱり嫌な予感がする。








*tart．．．酸っぱい。熟していないりんごのような鋭い酸味。

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