天穹ソルティ【ハイキュー】【及川徹】

tart ページ11

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「あの子はうちで育てようと思うの」





分かりきっていた言葉が、夕食の団欒にいやに響いた。俺は大量に積み上げられた唐揚げの一角を崩し、小皿に入れる。父ちゃんは、サラダを口まで運んでいた箸を止め、やがてカタ、と小さな音を立てて茶碗に置いた。


母ちゃんはやけに穏やかに微笑んでいる。いつもは気が強く、男所帯のこの家を支配する豪胆さを持ち合わせているのに、今はそれの片鱗も見せない。





「それは本当か？璃々子」


「そうよ。こんな時に嘘なんかつかないわ」


「だってなあ。俺もその件を考えてはいたが、実際に引き取るとなると、なあ」


「あら、簡単な事じゃない。洗濯物と出す食事と、他の家事がちょっぴり増えるだけよ。あとはお人形みたいにかわいい女の子が私と貴方の娘になる事かしら？徹や朔にとっては妹ね」


「そうぽんぽんと決めていい話じゃないだろう」





話に聞いているとはいえ、兄ちゃん驚くだろうな、と家を出て新しい家庭を作った年の離れた兄を思い出す。兄のところの一人息子は大層生意気なクソガキだから、正直なところ妹ができる実感が生まれなかった。


彼女は可哀想なこどもなのだろうが、同情や哀れみといった感情はあいにく生まれなかったから彼女を救わなければならない使命感もなかった。


ただ、嫌悪感もない。





「あの子、汚れを落としたらすごく綺麗な女の子でびっくりしちゃったわ。今まで出来なかった分好きな洋服を着て、好きなものを食べて、好きな事に挑戦させればきっと素敵な女性になれると思ったの」


「それはその通りだが．．．」


「駄目かしら？」


「．．．俺も、引き取るべきだと思う」





父ちゃんは若干俯いて呟く。


静かな空間が広がっていく。







*tart．．．酸っぱい。熟れていない林檎のような鋭い酸味。

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