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第捌話 ページ9

あの状況ではおそらく頷く他に選択肢は無かったに違いあるまい。
あれよあれよという間に入社の手続きは進んで、後は入社試験を残すのみとなった。白髪の虎君と着物の少女――中島敦君と、泉鏡花ちゃん。この二人が、どうやら私の教育係であるらしい。二人とも私と大して変わらない年齢で調査員をこなすというのだから、恐れ入る。
「それで、入社試験というのは、一体?」

算術や漢文の書き取り試験(テスト)なんかだったりしたら、ちょっと分が悪い。そういう類いはあまり得意ではないのだけれど。

「ああ、それについては大丈夫。入社試験に学問は関係無いよ」

ただ、私の試験の内容は二人には明かされないのだと、敦君は苦笑した。
なるほど、漏洩対策か。
変に緊張したまま、(敦君たちと一緒にではあるが)私に初めての仕事が与えられた。
とある事件の情報提供者とカフェーで落ち合い、情報を入手してこいというものらしい。

「それは、何の事件なの?」
「ええと、麻薬の密売の事件なんだ。そっちの方に詳しい探偵さんと会うことになってるんだけど……」

資料を覗き込みながら、敦君は不安気に「カフェー からたち」のテーブル席に腰かけた。対して鏡花ちゃんは至って冷静に、背筋をぴんと伸ばして座っている。思わず私も背筋を伸ばした。

やがて、ドアのカウベルがからんと鳴る。そちらに視線を遣れば、帽子を被った青年が笑顔でこちらに近づいてきていた。

「おたくが武装探偵社の調査員さん?」

その声には聞き覚えがあった。
驚いて、つい相手の顔をまじまじと見つめてしまう。それに気づいたのか、青年も私の顔をじっと見つめた。やがて、その顔に驚きが広がっていく。

「……葉月?」

「え」
「葉月、知り合い?」

敦君は小さく息を呑み、鏡花ちゃんはくいっとこちらに視線を寄越す。
けれど私にも、彼女の問いに答える余裕は無かった。驚きと戸惑いとで、喉の奥からやっと一言、絞り出すのが精一杯だった。

「……昭如(あきゆき)?」

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作者名:Lemon x他1人 | 作成日時:2018年1月21日 16時

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