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第拾話 ページ11

ヨコハマ湾近くの工場。奇しくもそこは、先程私達が話していたコンテナの近くにあった。

「ここに、あの密輸業者が立て籠もってるんですか?」
「嗚呼」

腕を組んで真っ直ぐに工場を睨む国木田さんに、敦君が声を掛ける。国木田さんの声は努めて平静であろうとしているらしかったが、眉間の皺は依然深く刻まれたままだった。

「どうやら我々の動きが気づかれたらしい。自棄(やけ)を起こしたんだ。奴は爆弾に人質を連れてあの建物に立て籠もっている。無理に突入すれば全員の命は無い、とも」
「全員?」
「そうだ。見ろ鏡花、あそこが工場の作業場。作業員数十人と爆弾がある。その隣……あの辺りだな、そこが裏口に繋がった会議室及び作業員の休憩部屋。密輸業者と人質一人が居る」

なるほど、つまり、私たちは何処からも入ることができない。工場の入り口は当然施錠されているし、裏口から入ったとしてもそこは会議室に直結している。犯人にすぐ気づかれるわけだ。窓を派手に割ればそれでも犯人に気づかれる。だから探偵社も軍警も手が出せない。
つまり、万事休す。
改めて工場を見上げて──そして気づいた。この工場の窓にはベランダがある。ご丁寧に、立派で丈夫そうな手摺りまで。

「……昭如」
「気づいたか、葉月」
「うん。これ、中に入れる」

私の呟きに、国木田さんが目を見張った。

「おい小娘、それは本当か」
「はい。けど、大人数はたぶん無理です。入るのに手間取るだろうし、犯人にも気づかれやすくなります」

私の、この考えならきっと上手くいく。
さあ覚悟を決めろ、樋口葉月。腹に力を入れて、真っ直ぐ国木田さんを見て、堂々と言え。

「だから……だから、私に任せてくれませんか、国木田さん!」
「……何を」
「私なら出来ます、絶対にやれます!侵入した後に爆弾を解除して、人質を救出します。それさえ出来れば、軍警も突入して彼奴を取り押さえられるでしょう?」

国木田さんだけでない、敦君も鏡花ちゃんも、昭如でさえも目を真ん丸にして面食らっていた。なおも私は国木田さんの目を真っ直ぐ、じっと見つめる。
出来る、絶対やれる、成功させなければいけない。
人の命が懸っている。それに私はここで、この事件で、自分が信用に足る人間だと武装探偵社(この人達)に証明せねばならないのだから。

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作者名:Lemon x他1人 | 作成日時:2018年1月21日 16時

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