【文豪ストレイドッグス】射干玉の少女と久方の白虎【中島敦】 (ページ1)

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プロロオグページ1

～No SIDE～
ヨコハマの街を、一人の少女が駆ける。右に、左に、表通りを通り過ぎ、路地裏をすり抜け、或いは道なき屋根の上や家々の間を駆けまわる。

――捕まるわけにはいかない。

命は惜しくないといえば、それは嘘だった。
しかし捕まろうが捕まるまいが、どうせ自分は死ぬ。ならばせめて、あの人たちは守らせて。
死ぬならば、私ひとりで死なせて。

表通りを行く人々に好奇の目で見られ、裏通りで蹲る浮浪者に嘆願の視線を向けられ、屋根の上で微睡む猫に一瞥され、それでも彼女は止まらない。

死なせない。絶対に、死なせない。それで私が死のうとも、私の大切な人たちは守る。
それが、せめてもの「彼ら」への救済、罪滅ぼし、私の贖罪。
微かに鉄錆の味のする唾を無理矢理飲み込む。喉はからからで、唾を飲み込むことすら苦しい。

逃げなければ。
私の罪を償うために、逃げなければ。

その矛盾にひとり心中で笑みをこぼし、彼女はまたその速度を上げた。