空想フランシール４th 【ars S.S】 (ページ28)

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133.オトウト。ページ28

「姉ちゃん、入るよー？入って良いー？イチャついてないー？」

ドアの向こうで太輔くんの陽気な声がする。

「バカじゃないの？実家でそんな事する訳ないでしょ！」

Aちゃんがそう言いながらドアを開けると、太輔くんがコーヒーカップが乗ったお盆を持って立ってた。

「実家じゃなかったらイチャついてんだ」
「彼女も居ないアンタとは違うのー」
「居るし！彼女、居るし！」

ケラケラと笑いながら、太輔くんは部屋に入ってお盆を学習机の上に置いてから何故か俺の隣に腰掛けた。

「ちょっと、太輔。用が終わったなら出てって」
「用はこれからだよ、ねぇ櫻井さん」

太輔くんが俺を見て「ごめんね」と謝る。

「えっ！？何が？」
「父さんだよ。悪い人じゃ無いんだよ？」
「あぁ、うん。分かってるよ」

分かってるよ、分かってる。

娘を想う父親の気持ちは、きっと俺らになんて想像できない程に大きいはずだ。

「父さん、姉ちゃんの事好きだからさぁ...ヤキモチ妬いてんだよ。面倒臭いよね、父親って」
「いや...」
「でも櫻井さん、真面目そうだし。きっと大丈夫だよ」
「え？」

Aちゃんに似てる笑顔で、太輔くんは笑う。

「姉ちゃんもそう思ったから、櫻井さん連れて来たんだろ？」

俺の隣を太輔くんに取られて、学習机の椅子に座ってたAちゃんはフワリと笑って頷いた。

中学生の頃より、大人になったその笑顔。

「櫻井さん。父さんね、怒ってる訳じゃないからさ。拗ねてんの」

太輔くんは、よいしょ、とベッドから立ち上がった。

「さてと、飯まだ時間かかるみたいだから。イチャついてて。あ、声は出さないでよ？さすがにそれは父さん、怒るから！」
「しないってば！」
「しない...って姉ちゃん、言い方考えろよ。生々しいなぁ」

うるさいうるさい！と、Aちゃんが太輔くんの背中を押す。
そのまま部屋の外に押し出された太輔くんは朗らかな笑い声を響かせながら、階段を下りてった。

「...ごめんなさい、何かもう...」
「ううん、良い子だね。太輔くん」
「うるさいですけどね」
「でも、優しいよ」

気を抜くと溜息を吐き出しそうだった重い気持ちが、太輔くんのお陰でまた軽くなった気がした。

「櫻井さん...」
「ん？」
「ごめんね...」

少し申し訳無さそうな表情で俺の隣に座ったAちゃんの頭をそっと撫でて、何も気にしないで良いよって心で想いながら

頬にキスした。