空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ6)

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41.線香花火。ページ6

線香花火は、パチパチと二人の顔を照らして、すぐに、消える。

「実はまだ、あるんですよ」

Aちゃんは、さっきライターを出した胸のポケットから何本かの線香花火を取り出した。

「あれっ？線香花火って無かったっけー？」
「相葉さんが無くした！」

下の河原で、雅紀達が騒いでる。

「Aちゃん、これもしかして...」
「全部、持ってきちゃいました！」

イヒヒ、って笑う。

ヤンキー座りってやつ、あれで。
さすがに膝は開かずに引っ付けてるけど。

しゃがみこんでるせいで、長いカーディガンの裾が地面についてしまってる。

「裾、土ついちゃうよ」
「あっ！」

Aちゃんは慌てて立ち上がると、カーディガンの裾についてる土をパンパンと払った。

ロールアップされて見えてるくるぶしにも少しだけ土がついてるけど、Aちゃんはそれには気付いてない。

「毎朝、ワンピース着てるよね」
「えっ？」
「あ...いや、何か今日は雰囲気違うなって思って...」

俺、突然何言ってんだ。
脈絡が無さすぎる。
話の流れ、ってのが全く無いだろ。

「あれ、制服みたいなもんなんです」
「制服...」
「仕事する用の、気合入れる為の制服。でも、あーゆー服装の事、よく分かんないからいつも楽なワンピースにしちゃって」

俺のスーツと、同じようなものか。

「でも、遊ぶ時はいつもこんな感じです」

立ち上がったまま、Aちゃんは両手を広げる。

「こっちが素です。朝の私は...ちょっとだけ格好付けてます」

悪戯がバレたような。

そんな表情をして、俺に少し頭を下げる。

「ワンピースで巻き髪の方が男受けは良いんですけどね！」

Aちゃんは、カーディガンの裾を気にしながらしゃがんで線香花火に火を点けた。

「櫻井さん。スーツ、疲れますよね」

そう言って、その線香花火を俺に渡す。

「あーっ！線香花火あそこだ！」
「翔ちゃん、独り占めしないでよ！」

下からアイツらが叫ぶ。

「ごめん、相葉くん！返すから！櫻井さん、一緒に行きましょ！」

Aちゃんが笑って土手を駆け降りるのを、俺は火の点いた線香花火を持ったまま少し遅れて追い掛けた。

河川敷には、不似合いなスーツ姿で。