空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ5)

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40.花火。ページ5

居酒屋で合コンしてたはずの俺は何故か、今河川敷にいる。

繁華街からちょっと歩けば辿り着く河川敷で、俺は土手に座って川辺で花火をしてるアイツらを眺めてた。

「しょーうちゃーん！翔ちゃんもそんなとこでビール飲んでないで、一緒に花火しよ！」
「やだよ！スーツが火薬臭くなるだろ！」

俺はここに来る途中のコンビニで買い込んだ缶ビールを飲んでは缶を潰して、もう三本目だ。

あの花火は雅紀が鞄の中に隠し持ってたらしく、さっきの居酒屋を出る時に「二次会はこれね！」と出してきた。

「んー...気持ち良いな...」

秋も深まってきて、風が冷たい。
アルコールが入ってちょっと火照って来た体には調度良くて、俺はそこにゴロンと寝転んで目を閉じた。

鼻先を火薬の臭いが掠める。
遠くにアイツらの楽しそうな笑い声が聞こえる。

「スーツ、汚れちゃいますよ？」
「わっ...！」

突然の声に目を開けたら、上からAちゃんが寝転んだ俺を見下ろしながら笑ってた。

「あ...えっと...そうだね」

俺が慌てて体を起こすと、Aちゃんも俺の隣に座った。

下の川辺では雅紀がまるで学生みたいにはしゃいで、ニノも珍しく大声で笑ってる。

「櫻井さん、花火楽しいですよ」
「え？あぁ...でもな...」

スーツってのは厄介で、本当は火薬の臭いがつくとかどうとかって事より、これを着てると変にはしゃげなくなるんだ。
俺にとって、制服のようなもんで。
スーツを着てる限り、仕事気分が全然抜けない。

「じゃあ、これはどうですか？」
「ん？」

Aちゃんは、悪戯っ子みたいな顔をして後ろ手に隠してた線香花火を俺の目の前に出した。

「これなら、ここで出来るでしょ？」
「...うん、そうだね、ありがと」

線香花火を受け取った俺の顔を見て、Aちゃんが笑う。

口に手も添えない。
微笑んだ、じゃない。

大きな口を開けてニコッと笑った。

全然理想の女の子じゃない。
もっと、おとなしい雰囲気の娘が良い。

サロペットの胸についてるポケットからライターを出して、俺の持ってる線香花火に火を点けるAちゃんの横顔が火の明かりでユラユラ揺れる。

...理想なんかじゃ、無い。