空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ33)

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68.ポスター。ページ33

店内が混んでたこともあって、さっさと食べて俺らは店を出た。

「櫻井さん、映画、何観ます？」
「あぁ、それなんだけどさ。良かったら…」

俺はケツポケットに入れてた財布から、ニノに貰ったチケットを出した。

「これ、ニノがくれたんだけどAちゃん、興味ある？」
「ありますありますー！私、これ観たくて！櫻井さんに今日の映画これでも良いか聞こうと思ってたんですよ！」
「そうなんだ！良かった」

複合施設の中にあるシネコンで、俺らはその映画を観て。
Aちゃんは原作本も読んでたらしく、観終わってからも興奮してた。

「小説読んでる時に好きだった場面が実写化されて映像になるって凄いですよね！」

映画を観る時に後ろの人の邪魔になったらいけないから、と脱いでたニット帽をギュッと両手で握り締めながら話す。

帽子を被ってたせいで、前髪がペタンコになってる。
でも、Aちゃんは気にしてないみたいだ。

「あー...ホント良かった...」

Aちゃんの目は潤んでる。

ラストシーンで、Aちゃんがグズグズに泣いてるのは気付いてた。
Aちゃんの涙にドキッとしてしまった自分に、ドン引いたけど。

「櫻井さん、ありがとうございました」
「チケットくれたのはニノだけどね」
「じゃあ、二宮さんにもお礼伝えてください」
「うん、伝えとくよ」

少しだけ陽が暮れてきた街は、昼間よりも行き交う人々が浮かれてるように見える。
他人から見たら、俺とAちゃんも浮かれてるように見えるのかな。

「あ...」
「ん？どしたの？」

Aちゃんが一枚のポスターを見て立ち止まってる。

「私、この人の絵、好きなんです」

そう言って彼女が指差したポスターには、俺が高校生の頃から何度も見てた画風のイラストが描いてある。

「来週から個展するんだぁ…行こうかな」

目を輝かせて彼女が俺を見る。

「櫻井さん、知ってますか？大野智！」

何だろう。

何でだろう。

息が少し、苦しくなった。

それは、俺が絶対に勝てない人。

俺がずっと。

なりたかった、人。