空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ18)

今日:32 hit、昨日:3 hit、合計:968,407 hit

53.音を立てて。ページ18

俺は駐輪場に自転車を取りに行って、ノロノロと漕ぎながら家に帰る。

軽い後悔と、それより少しだけ浮かれた気持ち。
電話番号とアドレスが、一人分増えたスマホが俺のスーツの胸ポケットに入っている。

突然俺に腕を掴まれたAちゃんはビックリした顔をして。
その顔に俺も焦って、すぐに腕を離して。

「せっかく知り合えたから...と...思ったんだけど、迷惑だよね。ごめんごめん！」

変な空気になってしまったのをどうにかしたくて、無駄にヘラヘラした俺にAちゃんもつられたのか「迷惑じゃないですよ」と笑った。

恋をした、だなんて思わない。

だって、タイプじゃない。

俺、口の端っこに青のり付けるような女の子好きじゃない。
ほっぺいっぱいになる程、一口が大きい女の子好きじゃない。

ただ、公園でパンを食べるのが好きってのはちょっと良いなと思った。

それがまた、たまやのパンだってのが良い。

好きな物が同じだから、親近感が湧いたんだ。
良い、友達に、なれると思った。

そう、思った。

恋愛にウンザリしてた俺は、そう思い込んでた。
思いたかった。

でも。

そんなの。

そんな思い込みは月曜の朝にパーンと音を立てて割れた。

週明け独特の体と心の怠さを纏って、俺は駅のホームに降りる。

あ、どこに立とう…。
Aちゃんの前か、一両分ずれた所か。
連絡先まで聞いたのに避けるのは不自然か。

そう思った俺は、Aちゃんの前になる位置に立った。

少しだけ緊張しながら、向こう側のホームを見る。

白いワンピースに紺色のジャケットを着て、クルンと巻いた髪を風になびかせて。

彼女は俺を見てニコリと微笑み会釈した。

俺は、自分の胸をスーツの上から押さえた。

聞こえるかと思ったから。

周りに、俺の心臓の音、聞こえると思ったから。

俺も必死で笑顔作って会釈する。

あぁ...マジでどうしよう。
あぁ...めんどくせぇよ。

こんなつまんない俺を、好きになってくれる人なんて居ない。

なのに。

どうすんだよ、俺。