空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ2)

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37.悪魔。ページ2

チラ...とあっち側のホームを見ると、Aちゃんはもうこっちを見てない。

電車がやって来るであろう方向を見て、片方の髪を耳にかける。

「じゃ、翔ちゃん。金曜の夜ね！」
「...暇じゃないよ…」
「往生際、悪いよ？」

いつもと同じように、向こう側のホームより先に入ってくる電車。
その電車に、雅紀に背中を押されながら乗り込む。

乗り込む車両が変わって、毎朝顔を合わせる乗客も変わった。

「ねぇ、翔ちゃん」
「何だよ」
「本当に嫌だったら...俺、無理強いはしないから」
「...え？」

太ももの下に手を入れて背筋を伸ばして座る雅紀が、小さく呟いた。

「翔ちゃんが合コン、どーしても嫌ならやめとくよ」
「いや...うん...」
「翔ちゃんが嫌がる事は、したくないから。俺、翔ちゃんに笑って欲しくて合コンしよって思ったんだし」
「雅紀...」
「恋して欲しいなって思ったけど...翔ちゃんがその気になる事が一番大事だから」

朝っぱらの通勤電車で。
センチメンタルな気持ちなんてこれっぽっちも乗せてない、現実的な電車で。

雅紀は、聞いてるこっちが照れ臭くなるような事をポツリと言った。

「いや...別に...合コン位、良いけど…さ」

雅紀はいつだって、軽いけど。

でも、いつだって俺を心配してくれてんのは分かってんだ。

五年前、あの騒動の後、四人が家に来たのは雅紀が言い出した事だってニノに聞いた。

雅紀以外の三人はそっとしておこう、って言ったけど「今、一人にしたら翔ちゃん潰れちゃうよ」って。
「そして、ニノはちゃんと翔ちゃんに謝れ！」って。
智くんに散々怒られた後のニノを更に怒ったんだ、って。

「ホントに？」
「あぁ。良いよ、金曜だな？」
「うん！」

合コンなんて、そんなもんに俺は出会いを求めてなんかいない。
俺は、恋愛するならあくまでも自然な出会いを求めるんだ。

だから、これは、あれだ。

雅紀のお気遣いに応える、と言うか...。

「ニノにも伝えなきゃ！」

雅紀は携帯を出してメールを作り出した。

何気無くその液晶を覗くと

『やっぱ翔ちゃん、チョロいよ！情に訴えたらアッサリOKだった！ニノの言う通りだ！』

あぁ…神様。

この悪魔二人をどうか葬ってください。