空想カタルシス 2nd 【ars S.S】 (ページ1)

今日:34 hit、昨日:3 hit、合計:968,409 hit

36.10日。ページ1

いつものホーム。

いつもの彼女...Aちゃんは、そこにいる。

俺は、いつも立ってた場所から一両分ズレた所に立つようになった。
雅紀がAちゃんを合コンに誘った、って言ってきたあの翌日から。

意識しすぎだとも思うよ？

だけどさ、きっと雅紀は合コンに俺も行くってことAちゃんに言ってるだろう。
それを思うと居たたまれない。

万が一目でも合ったらどうすんだよ。
俺、絶対挙動不審になる自信がある。

あぁ…せっかく心地良い通勤を見付けたと思ったのに。
またJRに戻そうかな...。

「しょーうちゃんっ！おはよ！」

能天気な声にゆっくり横を見る。
俺の隣には、俺の通勤を気まずいものにした張本人がニコニコして立っていた。

雅紀と会うのは、日曜にコイツが家に来た時以来。
あれから、10日は経った。

そうだ。
もう、10日もこんな小さな気まずさに何となく心がチリチリしてて。

そんな自分の小ささが身に沁みて、溜め息だけが大きくなる。

「あれ？前と立ち位置違うんじゃない？」
「...そ？」
「違うよー、だってAちゃんの真ん前じゃなくなってる」

雅紀はそう言うと、向こう側のホームを見る。

「あっ！Aちゃーん、おはよー」

雅紀が手を振りながら出した小さな声に、思わず俺も向こうのホームを見るとAちゃんが笑顔でこっちを見ている。

「おはよう」と、彼女の口が動いた。

そして、彼女は雅紀から視線を俺に移して、ペコリと会釈する。

俺も慌てて会釈したら、雅紀がクスクスと笑う。

「...何だよ...」
「ううん」

長めの前髪を風にふわっと揺らしながら、雅紀は俺を見る。

「翔ちゃん、今週末って暇？」
「あぁ…うん、ひ...」

あ...これ...って、もしかして...

「...まじゃない」
「フフッ、もう遅いよ。暇でしょ？」

俺の肩にポンッと手を置き、笑う雅紀はきっと女の子から見たらすげぇ格好良くてドキドキもんなんだろうけど。

今の俺には、笑顔の雅紀に悪魔の尻尾でも見えそうだ。