空想カタルシス【ars S.S】 (ページ6)

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6.高校三年生。ページ6

「ねぇ、カイチョー」
「なにー？」

潤は今でも生徒会長だった智くんを「カイチョー」と呼ぶ。

何もしない生徒会長と、生意気な下級生３人との生徒会活動はそれまでの何となく無色だった俺の高校生活に色を着けてくれた。

高校三年生になった春。

俺と智くんは柔らかい陽射しが差し込む生徒会室に居た。

選挙制では無く、教師からの推薦のみで選出されるうちの学校の生徒会。
辞退も出来るけど、内申の事を考えると生徒会に所属してるのは悪くない。

打算的な考えだけで俺は大してやりがいも感じてないまま、一年の頃から生徒会に所属していた。

「翔くんが会長で良いよー」
「駄目だよ、先生から会長は大野って言われてんの」
「何でおれなのー...絶対翔くんの方が会長っぽいのに！」

それはね、智くん。
貴方が首席で入学して、それから一度もその座を誰にも譲ってないからですよ。
学校自慢の生徒である大野智が生徒会長に指名されるのは、至極当然だ。

「副会長は翔くんでしょ？」
「まぁね」
「じゃあ、安心だ！」

智くんは鞄の中からスケッチブックを出して机に転がってた鉛筆を手にした。

智くんの夢は、イラストレーターだ。
勉強してる暇があったら絵を描いていたいっていつも言う。

なのに、首席なんだ。

世間では智くんみたいな人を「天才」と呼んで、俺のようなのを「努力の人」なんて言うんだ。

大学に行くつもりも無い智くんが何で辞退せずに生徒会に所属してるのかが気になって、一度聞いたことがあった。

智くんはニッコリ笑って「生徒会室ってこの学校の中で一番気持ち良いでしょ？」と窓の外を眺めた。

四階建ての校舎の四階、南端にあるこの部屋はいつも明るく陽が差し込んでいる。
窓からからは裏手にある雑木林の緑が見えて、智くんはいつもその窓辺に机を移動させて絵を描いていた。

ゆるーく首席を守る智くんに、俺は必死になって勉強しても勝てなかった。

「ほら、翔くん！似てない？」
「それ、ウサギにしか見えないんだけど」

サラサラッと描いたウサギの絵を俺に見せながら「翔くんはウサギに似てるよ」って笑う智くんは子供みたいで。

俺、こんな人になりたいなっていつも思ってたんだ。