空想カタルシス【ars S.S】 (ページ4)

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4.予約。ページ4

朝から自転車ぶっ飛ばして疲れてたけど、いつもはオッサン達にギュウギュウ押し潰されてる事を考えたらこの通勤は良いかもしれない。

俺と雅紀は揃って同じ駅に下りた。

「さてとー！今日もバリバリ売りますかー！翔ちゃんはバリバリお仕事頑張って！」

すっかり目がちゃんと開いた雅紀が両手を挙げてグッと背伸びする。
その背中が小さくパキッと鳴った。

「お前のもお仕事なんだけどな」
「俺のは趣味も入ってるからね」

雅紀はセレクトショップで働いてる。
そこの店長さんだ。

たまに雅紀が海外まで買い付けに行ってるみたいで時々どこで買ったのか分からん人形を土産にくれたりする。

「ねぇ、翔ちゃん」

駅構内を並んで歩きながら、雅紀が俺の腕をつつく。

「今日の夜って暇？」
「仕事終わったら暇だけど...」
「何時に終わる？」
「ノー残業デーだから、まぁ七時には」

俺は腕時計を見ながら答える。

「良いなぁ、ノー残業デー！」
「良くないよ、今日早く帰る為に結局昨日残業してんだから」
「何その矛盾」

その通りだよ。
何かと矛盾の多い世の中だ。

「じゃ、呑みに行こうよ。せっかく朝から会えたのもご縁でしょ？朝から記念日」

縁も記念日も何も、高校の頃はいっつも朝から会ってただろ。
呑みに行くのに理由をつけたがるのも、ずっと変わんないな。
やれ「ペットの猫が彼女作った記念」だの、やれ「良い塩梅のＤＶＤが手に入った記念」だの。

「良いよ」
「皆にも連絡しとくね！」
「皆？...って皆？」
「うん、皆！じゃ、また店とか連絡するね！」

雅紀は携帯を高く挙げて、雅紀と同じように極彩色の繁華街に歩き出してった。

アイツ、ファッションは流行の最先端なのに携帯はずっとパカパカだな。

俺は雅紀が行った方向とは真逆の無彩色のビジネス街に足を踏み出した。