空想カタルシス【ars S.S】 (ページ30)

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30.ベランダ。ページ30

休日は、大体いつもより長く寝て昼前に起きて、洗濯して掃除機かけて...そうやって過ごすことが多い。

その日も天気が良くて、柔軟剤の匂いに包まれながら洗濯物を干していた。

「気持ちいいなぁ…」

全部干し終わってベランダから外を眺める。

「翔ちゃーん！」

は？

どっかから俺を呼ぶ声がする。

「翔ちゃーん！下！」

その声に、俺は三階の自分の部屋から下を見た。

そこにはあのナンパ野郎が、両手を俺に向けてブンブン振ってる。
歯並びの良い白い歯見せてニーッと笑う雅紀は、今日もすこぶる爽やかだ。

「何してんの」
「翔ちゃんに会いに来たんだけど！上がって良い？」
「まだ掃除機かけてな…って...聞いてないし」

俺の返事なんて全然聞かずに雅紀は走ってマンションの中に消えた。

ものの一分位で、雅紀は俺の部屋にやって来る。

「あっ！ブーツめんどくさっ！スニーカーにしとけば良かった！」

玄関にしゃがんでブーツの紐をほどいてる雅紀を放っておいて、俺は冷蔵庫からコーラを出して某ハンバーガーショップで貰ったグラスに注いだ。

「お前、今日休みなの？日曜なのに」
「うん、そーゆー時もあるよ」

部屋に入ってきて俺からコーラを受け取った雅紀はソファの下にペタンと腰を下ろした。

俺はソファに座って「突然どしたの？」と雅紀に聞いてみた。

「俺ね、ずーっと引っ掛かってた事があったの」
「うん...で？」
「どっかで見たことあるよなぁ…誰だっけなぁ...って」
「...なぁ、何の話？」

主語が無いぞ。
ニノから国語を教わった方が良い。

「あ、あの可愛い靴の娘」

ちょっとだけ、いやかなり、そうじゃないかなとは思ってた。
雅紀がうちに来た理由。

あのナンパの話をしに来たんだろうなって、思ってた。

「あぁ、あの娘ね」

なんて、興味の無い空気出して答えたものの。
何故か俺は雅紀の話が早く聞きたくて。

なのに、雅紀は呑気にコーラを飲みながら「洗濯物、良い匂いするねぇ」と、開けっぱなしのベランダから香ってくる柔軟剤の匂いをクンクンと嗅いでいた。