空想カタルシス【ars S.S】 (ページ28)

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今朝も、ワンピースの裾をヒラリと揺らしながらあの娘はいつもと同じ場所に立ち、電車を待っている。

俺も、その正面になる位置に立つ。

雅紀が言っていた『靴がお洒落』が気になって、視線を彼女の足元に向けてみる。

あぁ、確かに普通だったらパンプスとか合わせるんだろうけど、彼女はくるぶし位までの短いブーツを履いてる。

「あの娘、今日の靴も可愛いよね」
「っ？！」

知らない内に、隣に雅紀が立っていた。

「あのベルクロ可愛いな」
「ベ...ルクロ？」
「靴紐の代わりにマジックテープになってるでしょ？ウェッジなのも可愛いし、ホント可愛い靴履くなぁ」

女の子大好きな雅紀だからニヤニヤしてんじゃないの？と思ってチラッと横顔を見ると、意外にも仕事の顔になってた。

「雅紀、今日も早いんだな」
「うん、本社に呼ばれてさ。多分次の買付の要請だと思うんだけど」
「また海外？」
「そうだよ。マイル、ちょー貯まるからね、俺！」

ニッと笑うと「良いでしょ」とピースする。

「もう、変な人形とか買ってこなくて良いからな」
「えー、翔ちゃんのお土産に変な人形選ぶのが俺の楽しみなのに」
「妙なことを楽しみにすんなよ」

困るんだって、あれ。
飾るの不気味だし、捨てると呪われそうだし。

「あの娘、何してる娘なんだろ…」

雅紀は、さっきの仕事の目とは違う、単なる女の子大好きな男の目になって正面の彼女を見る。

「お前の頭ん中は万年思春期だな」
「万年ハツジョーキよりはマシでしょ？」
「...似たようなもんじゃないの」
「女の子が好きなだけですぅ！」

そんな口とんがらせても、残念ながら俺にはお前が可愛くは見えないよ。

俺は「万年ハツジョーキ」と笑って、もう一度彼女を見た。

彼女のその目が、俺を見ていた。

いや、雅紀を見てたのかもしれない。
こっちを見てたってだけだ。

でも、俺の胸はドクッと高鳴った。

ビックリしただけだ。
ただ単に、目が合ってビックリしただけ。

「あらら？翔ちゃん？」

雅紀がニヤッと笑う。

「なっ...何だよ」
「ん？何でも無いよ」

右頬を上げてクスリと笑う雅紀は、顔を俺に向けたまま目線だけで向こう側のホームを見てた。