空想カタルシス【ars S.S】 (ページ26)

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26.朝。ページ26

「オレ、怒られんのがこの世で一番嫌いなんだよな」

なのに大野さんめっちゃ怒るんだもん！と、唇を尖らせながら愚痴るニノとコンビニまで歩く。

「そんな怒られたんだ」
「すげぇ怒られた。もう、すっげぇ怒られた」
「怒ると怖いもんな、智くん」

ケラケラ笑ながら、俺らは重くて手がちぎれそうになる程に大量の酒を買い込んだ。

「こんなに飲みきれねぇわ」と両手に重いビニール袋を提げてフラフラしてるニノと、また暑い夜道を歩いて家に戻った。

部屋では三人がテレビを観ながら、お茶を飲んで俺らの帰りを待っててくれて。
俺が部屋に入った途端、智くんは「高級ビール！やっと飲める！」と叫んで七福神の一人が描かれた缶を高々と掲げた。

「おら、割り勘だ！」

ニノが腰に片手を当てて、もう片方の手を座ってる三人に向けてヒラヒラさせて、ニヤリと笑った。

俺らは飲みきれないんじゃないの？って思ってた量の酒を延々飲み続けて、一人また一人と潰れてその辺で居眠りを始めて。

気が付けば、カーテンを開けっぱなしだったベランダの窓の外が明るくなっていた。
その日光が顔に当たり、目が覚めて何気無く携帯で時間を見る。

「...えっ？！やばっ！！」

仕事っ！

「ちょっ...みんな、起きろ！」

俺の声で最初に起きたのは潤。
時間を見て真っ青になり、すぐに親父さんに電話をした。

「ごめん！今日の開店、間に合わない！」

どうやら、電話の向こうでは親父さんが激怒してるみたいだ。

次に目を覚ましたのはニノ。

「...最悪、ちょー酒くせぇ、オレ...今日、作家さんと打合せなのに」

そう言ってフリスクをザラザラと手のひらに出して口に放り込んだ。

俺が慌てて支度をしてると、雅紀が「昨日と同じ服、マズイ！翔ちゃん、服貸して！」と勝手にクローゼットを開けた。

「うわーっ！ろくな服が無い！」

コイツ...。

頭を両手で抱えて絶望してる雅紀の背中をドカッと蹴ってる俺の背後で、智くんがゆらっと起き上がり「おはよ」とニコリと微笑んでキッチンに向かう。

締め切りには追われてても、勤務時間には縛られてない智くんだけが、優雅にコーヒーを淹れていた。