22.友達。 ページ22
駅前のベンチに、彼女はいた。
虚ろな目は真っ赤で、でも泣いてるわけではなくて、きっと、羞恥だ。
それと、小さな怒りも。
俺は何も言わず隣に座って「これ」と彼女が忘れてたタオルを渡す。
「俺だけ何があったか分かってないんだけど…話してくれない？」
とは言っても、簡単に話してなんかくれないだろうと思ってた。
けど、彼女は意外にもスンナリ口を開いた。
「二宮さんに電話番号、渡したの。それだけ」
「それだけ...って...何で」
「だって、翔って思ってたよりずっとつまんないから」
「...え...？」
あれ...？
俺、今何か聞き間違えた？
「翔、人気あったの。うちの会社で。格好良いし、頭も良いし。だから、付き合えて嬉しかったの」
彼女は俺を見ずに、前に放り出した自分の脚の爪先を眺めながら話す。
「最初は、翔の顔が見れるだけで幸せだった。こんな格好良い人が私の彼氏なんだぁって。でも...」
それだけではね、とフッと笑った。
「退屈だったの。翔、真面目すぎて。話も合わないし」
...あんなに笑ってたのに？
あんなに楽しそうな顔、してたのに？
「やっぱ、顔やステータスだけで選んだらダメなんだなぁって。もう潮時かなぁって、正直別れを考えてたの」
彼女は顔色一つ変えない。
ただ、虚ろな目でポツポツと話す。
「そんな時にさぁ、あんなイイオトコいっぱい見せられて...」
フフッと鼻で笑うと、やっと隣にいる俺を見た。
「心、揺れて当然じゃない？」
俺の知ってる彼女の笑顔じゃなかった。
笑ってるけど、目の奥が冷えきってる。
「特にあの、二宮さん。顔も良いし、頭も良いのに面白いんだもん」
「...だからって…」
「何？」
「俺の友達だよ？」
ニノの少し、苦しそうに眉間に皺を寄せた顔を思い出す。
ありえねぇ...って吐き捨てた、声を思い出す。
「そうだね。意外と翔と同じで二宮さんも真面目だったみたい。類は友を呼ぶんだね。つまんない、ホント」
そこにいる女の子は、もう俺の知ってる子じゃなかった。
いや...これが本当の彼女か。
じゃあ、今まで見てた彼女は何だったんだ？
見えてるものが真実とは、限らないって事だ。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2013年9月5日 19時
