21.出口。 ページ21
その、一見穏やかな笑顔のままニノは彼女の肩に手を乗せ「お出口、あちらになります」と囁いた。
彼女は立ち上がって、思いきりニノを睨みつけた。
座ったままそれを見上げたニノから静かに笑顔が消える。
「翔ちゃん。このオンナ、ろくでもねぇよ」
彼女を見たまま、ニノは俺に吐き捨てた。
ろくでもないって...何...誰か説明してくれよ。
いや、何となく分かってるよ。
分かってるけど、誰か教えてくれよ。
彼女が俺を一瞥した。
何も言えない。
ただ、息を飲むだけ。
「よく翔ちゃんのコト、平気な顔して見れるなぁ」
ニノの冷えた声と同時に、彼女は部屋から出て行った。
「ちょっと！待って！」
俺はすぐに立ち上がって彼女を追おうとしたんだけど、ニノに腕を掴まれた。
席一個分離れてんのに。
体をグッと伸ばしてまで、俺の腕を掴む。
「何なんだよ…マジで...」
自分から出た声とは思えない弱々しさだった。
「説明してくれよ…」
ニノが俺の腕を離して「あのオンナ、翔ちゃんがトイレ行ってる隙にオレの手握って連絡先渡してきた」と、小さな声でボソッと言った。
「ありえないだろ？彼氏の友達に色目使うって。しかも彼氏もいる場所でって...ありえねぇって」
ニノの眉間に深く皺が入る。
まさかさ。
こんな空気になるなんて思ってたか？
こんな重苦しい空気になるなんて、俺、トイレに行く前まで想像もしてなかったよ。
「翔くん、座りなよ」
「あ...あぁ…うん」
智くんに言われて、やっと自分が立ちっぱなしだった事に気付く。
椅子に腰かけると目の前に彼女のハンドタオルが忘れられてた。
「俺、やっぱ...話してくるわ...」
俺はそのタオルを手にして、また立ち上がった。
もう、ニノも何も言わない。
店を出て、彼女に電話する。
液晶に電話番号が浮かんだ時、胸がグゥッと詰まった。
別に浮気された訳じゃない。
電話番号、渡しただけだろ？
だったら...
「...もしもし...」
電話の向こうから、彼女の声がする。
まだ、俺は彼女を信じたいんだ。
ニノに電話番号渡したのも、友達になりたかっただけだって、そう言ってよ。
「今、どこにいる？」
俺に向けてくれてた笑顔は、嘘じゃないだろ？
俺は、彼女がいるっていう駅前まで走った。
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2013年9月5日 19時
