空想カタルシス【ars S.S】 (ページ20)

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20.異変。ページ20

六人で散々呑んで。

それぞれ、良い感じに酔っていた。
彼女も皆と打ち解けて楽しそうだった。

でも、俺がトイレに立って部屋に戻った時。

部屋の空気が一変してた。

一瞬、何が変なのか分からなかった。
何がおかしいのか、分からなかった。

部屋の入口に立ってる俺から見えるのは、明らかに動揺してる雅紀と、溜息を吐く潤と、眉間に皺を寄せる智くん。

ニノと彼女は背中しか見えない。

「フッ...」

ニノが鼻で笑った。

「何なんだって、聞いてんの。聞こえない？ねぇこれ、何なの？」

ニノがこれ以上冷酷な声を聞いた事が無いって思うような、冷ややかな声を出す。
その冷たい冷たい声は、どうやら彼女に向けられてるようで俺は少しニノに苛立った。

「ちょっと、ニノ。何なんだよ」

俺が聞いても、ニノは振り向きもしない。
そして冷たく、吐き出し続ける。

「おい、お前。口、ねぇの？何か言えや」

何なんだ。
何でニノが俺の彼女にこんな口のきき方すんだ？

俺は何も理解できないまま、さっきまで座ってた彼女の隣に座る。

向かいに座ってる三人は、気まずそうに俺から目を逸らす。

「なぁ...何なの...？」

彼女に聞いても俯いたまま、何も言わない。
ニノに目線を向けても、ニノは全く感情の見えない目で彼女を鋭く見てるだけで俺を見ない。

ふと、机を見ると一枚の紙切れが置いてあってニノの人差し指が乗っている。
その人差し指が苛立ちなのかトントントントンと動く。

「...え...」

その紙をじっと見て、俺は無意識に声を出していた。
書いてあったのは、俺の見間違いじゃなければ...俺もよく知ってる数字の羅列だ。

「安いオンナだな、お前。オレも甘く見られたモンだわ」

電話番号だ...。
彼女の...携帯の...。

「二度とオレの前に顔見せんなや、気分わりぃ」

その下には、『二宮さん、電話してね』と書いてある。
彼女の字で。

「オレ、バカで尻軽なオンナが一番嫌いなの」

ニノは、冷たく言い放ちながら天使のようにニッコリ笑った。