空想カタルシス【ars S.S】 (ページ19)

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19.居酒屋。ページ19

トラウマだなんて言ったら、大袈裟かもしれない。

ホント、大したことじゃないんだ。
大したことなんかじゃ、無い。

五年前。
俺には付き合って半年の彼女がいた。

その頃は営業だった俺が、よく出入りしてた会社の受付嬢だった。
週一程度で顔を合わすようになると、ちょっと世間話なんかもするようになって。
それこそ自然に。可愛いなって、思ったんだ。

食事に誘って、何度かデートして。

ちゃんと段階踏んで、彼女になって欲しいって告白した。

付き合ってからも、彼女は明るく可愛くて。

俺らは半年間、楽しくやってたと思ってたんだ。

あれは暑い暑い夏の夜だった。

俺は、彼女を連れて居酒屋に行った。
居酒屋に向かう道、彼女はいつもに増して楽しそうに笑って、俺も笑った。

通された居酒屋の個室には、あの四人が待ってたんだ。

「翔ちゃんの彼女に会いたい！皆も会いたいって！」と、雅紀が勝手にセッティングしたんだけど。

見せ物みたいになっちゃうし、絶対アイツらの事だから下世話な話にもなるだろう。
だから、彼女にどうする？って聞いたら「恥ずかしいけど翔のお友達なら会っても良いよ」って言ってくれて。

そんな社交的なとこも、好きだったんだ。

「お待たせ」

部屋に入ると、四人はもう飲み始めてて雅紀はすぐに「彼女、可愛い！」って立ち上がった。

彼女はスッと、俺の背中に隠れて「何か恥ずかしい...」って小さく笑った。

俺は、楽しいお酒が呑めそうだなと思ったんだ。
その時までは。

あの後、色々考えた。

色んな後悔をした。
色んなタラレバを考えた。

でもきっと、結果は同じだったんだろう。

彼女は、俺とニノに挟まれる形で座った。

この座る位置が違ったら...いや...それでもきっと、一緒だな。

どっちにしても、俺は恋愛スイッチを切ることになったんだろうな。